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【注意】
・擬人化です。
「パイレーツ、泊めて下さい」
玄関を開けると酔っぱらいが有無を言わさず転がり込んできた。
表現ではなく、本当に転がり込んできた。細身とはいえ、ドアをあけて唐突に人間が一人倒れ込んできたものだから、パイレーツはあわやマジックもろとも後ろへひっくり返るところだった。
それを何とか堪えられたのは、何のことはない、後ろにもう一人、人間が立っていたからだ。マジックごと後退ったパイレーツを、珍しく避けもせずに支えた体格の良い男は、グランドだった。
グランドは、無反応と言っても良い淡泊さで、闖入者とパイレーツとをしげしげと眺めた。
「…おい、おい! 冗談じゃないぞ!」
ぐでんぐでんという言葉がこれほど似合う状態もないだろう。敷居をまたいだ瞬間に意識を手放しでもしたのか、マジックはすでに自分の足で立つことを完全に放棄している。
起きているのかどうかも怪しいところだ。そのせいで、側面から突撃されてしがみつかれたパイレーツは、変な姿勢で踏ん張る羽目になった。
マジックは、表向きはキングが経営するカジノの従業員で、さっぱりとした気性と酒の趣味が合って、パイレーツとはそこそこ気の知れた仲と言えた。
週に何度か手品のステージを持つ傍ら、普段はポーカーテーブルやルーレットでディーラーをこなしている。ステージでのド派手なマジックの装いと、ステージ以外でのマジックの地味顔には隔たりがありすぎて、客の殆どはディーラーがステージに立っていることを知らないようだ。
酒には弱い方ではないのだが、たまに、限界を超えてべろべろになるまで飲みたがる悪癖が沸く男で、実のところパイレーツがマジックの襲撃を受けるのはこれが三度目だった。
叩きだしてくれると首根っこを捕まえたところで、背後でマジックとパイレーツを見ていたグランドが、ぼそりと呟いた。
「………俺は帰るぞ」
「な、待て」
慌ててグランドの腕を掴むと、パイレーツにもたれ掛かっているマジックのバランスが崩れ、半分ほど地面に落ちるが、それを構っているほど暇ではない。
「待て、おい、誤解だ」
「(誤解も何も、誤解とか言うと俺がお前とマジックの間を勘ぐっているようにも聞こえるし、俺とお前の間に何かがあるような口ぶりだ。実際にお前とマジックが清らかな関係であろうと爛れた関係であろうと興味はないが、普段の言動を見る限り九割がた清らかな仲とは言い難いのではないか。故に誤解ではなかろうと思う。しかしながら俺とお前の間にそういった関係が築かれることは有り得無いので、もし万が一誤解だろうと事実だろうと、今の推察が間違っていたとしても、)問題無い」
「なにがだ! 端折るな! 貴様、いま恐ろしい決めつけを勝手にしただろう!!」
全く常通りの無表情で、グランドは自分とは対照的に、動揺だか怒っているのだか分からないが、酷く顔を歪める――敢えて言うなら必死の形相をした――パイレーツの手を外した。ずり落ちて床に俯せになったマジックを一またぎすると、グランドは淡々とドアノブを掴む。
「おい! グラン――」
追いかけるパイレーツの声を無視して、グランドは無情にも足を一歩踏み出し、ドアを閉めてしまった。
ばたんととじた音を聞き、一瞬、何をしに来たのだったかと考えて、ああそうだ珍しい石が手に入ったのでと誘われたことをグランドは思い出した。
実際は、それを見る前にマジックが訪れたので、グランドの訪問の目的は果たせなかったわけだが、来客というのに居座るほどでもない。珍しく、ただ少し気を惹かれただけで、それが何の石かということも聞いては居なかった。
ほんのわずかに、残念だなと思う気持ちが、グランドの腹の底をかさかさと引っ掻く。
その控えめな感情は、どれだけ多く見積もっても小指の先程もなく、それがグランドの意識上へ浮き上がるにはあまりにもささやかすぎたので、グランド本人にも覚れぬ程度のものだった。
であるからして、数歩歩いたグランドが、ふっとドアを振り返ったことも、無論パイレーツには知るよしもないのだった。
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