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1/23はワンツースリーでマジックの日だそうです。
今日は24ですか。
いいえ。寝るまでは1/23日のロスタイムですよ。
世迷い言を堂々と清らかな瞳で言い切る汚いおとなです。
久々の交神はマジックとグランドです。
基地がお隣ですね。という軽い気持ちで。ゆるく。りはびりてきに。
ゆきさぶいです。
「ご足労頂けて何よりです」
ミーティングを行う、ついては指定日時に指定座標まで来られたし。詳細はコウコウ、と果たし合い状もかくやの一方的な通信を叩きつけたのはマジックマンだ。
しかし、呼びつけておいて何だが、指定時間に先方がやって来るなどとは、マジックマンは露程も想定していなかった。
なにしろグランドマンの出不精は周知の事実である。マジックマンが指定したのは本拠地ではなく、マジックマン基地内だったのも、驚きを煽った。比較的立ち寄りやすそうな砂庭近くのテントを指定したとはいえ、蟻地獄か蝉の幼虫程度には地面の下に引きこもっているのが好きなグランドマンが、ミーティングごときに他機の基地までわざわざ出向いてくるなど、誰が思うだろう。
明日はドリルでも降るのか。
内心、飛びあがるほどびっくりしつつ、マジックマンは笑顔で席を勧めた。グランドマンの腰の重さから考えて、来ないことを前提に設けたミーティングだ。まともな準備などがあるわけもない。
マジックマンとしては「一応私は努力したんですがねえ」という言い訳のために出てこいと言ったのであって、端から当てにしてはいなかった。どうせ作戦会議などしたところで、現場に行けば好き勝手に動くのを知っている。どうしても、本当にミーティングが必要だというなら、マジックマンは自ら砂漠まで押し掛けただろう。その方が確実だ。
「……キングが」
ぼそりと洩らされた言葉にアア、マジックマンは納得の頷きを返す。そうでしょうとも、マジックマンは安堵するように更に頷きを重ねた。
「じゃあせっかくですし始めましょうか。場所の確認から。明日向かう礫砂漠ですけど、砂漠というよりは紅い石榑の続く場所で――」
テーブル状に旧式の平面プロジェクタを置くと、グランドマンは訝るように細長い機材を見つめた。
掌に隠れてしまうほどのサイズで、平たい豆か、倒れた卵のような形をしている。元々かなり小さな市販の製品を探してきて、手品の小道具にとマジックマンが軽量化したものだ。
手品に使う用がなければそのまま使っても問題のないもので、ジャンク屋の言葉を借りれば「ヒットが見込まれた隠れた良品」だという。しかし、立体ホロビジョンが携行可能になったのと発売時期が重なったせいで、あまり売り上げは伸びなかったそうだ。
「平面プロジェクタ」とわざわざ註釈付で呼ばれる通り、最近ではホロビジョンの方を「プロジェクタ」と指す傾向がある。三次元プロジェクタやら立体投影、あるいは3Gと呼ばれていたものが、徐々にシェアを拡大した結果だろう。だからといって平面プロジェクタが全てホロビジョンプロジェクタに取って代わられるという状況にはまだ時間を必要とするだろうが、ビジネスプレゼンや教育現場でも着々とホロビジョンが台頭していることもあり、市場の流行としては、特に新製品としては影が薄いのだという。
レンズとその周辺の器材の発達によって、平面さえあれば投影距離は必要がなくなったが、昨今ではこれだけ手の込んだ改良版「平面プロジェクタ」といえば、追いやられてしまった隙間の技術とも言えた。
「……こんなの珍しいですか?」
「…アジア製の、軽量・静音・美発色・レンズシフト調整」
「鉱物オタクなのは知ってましたが。機器類にも手を広げたんですか」
「中の部品がストーン研磨の留めに丁度いい」
グランドマンの言葉が言い終わる前に、マジックマンはプロジェクタを取り上げた。
「分解されちゃかないません」
惜しそうに見つめるグランドマンからプロジェクタを離れた位置にセットし直し、マジックマンは手早く任務の流れを確認した。砂漠の中程に展開する某国の軍需工場の襲撃、及び光エネルギーボンベの略奪。
「荷は適宜砂中から、えーとグランド、これは私の持ち込みであって備品じゃありません。そんな見つめられても」
「……壊れたら用済みだな?」
「そうだお茶にしましょうね!フレーバーエネルギーのいいのが手に入ってて!」
パン、と両手を勢いよく合わせたマジックマンは、プロジェクタを掴むとシルクハットの隙間ヘ投げ込み、そそくさと簡易キッチンへ向かった。
マジックマンのサーカス内で喫茶施設の役を果たすテントは、先刻からなんでも摂れるように準備が整っている。普段はロンパースなり別のロボットが立ち回っているが、今日はその任を解いている。
「最近コーヒーフレーバーを微量の光エネルギーと摂るのに凝っていまして」
ニンゲンが摂取できないエネルギー媒体なのにコーヒー味って誰がそういうことに決めたんだ、やら、おまえ味わかるのか、やら、そもそも口あるのか、という問いをグランドマンは浮かべたものの発することはなかった。無言で迎えられた答えに、マジックマンも怯む様子はなく、「じゃあオススメでいれますね」と戸棚から道具を取り出した。
円錐系の陶器製のカップのようなもの――ドリッパーに何やら布を敷き、黒い粉をスプーンで計量していれると、先細のポットだか如雨露だか分からないものから、液体を注ぐ。くるくるとポットの先端で渦を描くように注ぐ様子は、「コーヒーのようなもの」であるコレには必要のない謎の儀式だ。しかし、いちいち気取った手順を踏むのは、手品師としての習い性のようなものだった。
ロボットの嗅覚とされるセンサーをくすぐる芳香は必ずしも共通ではないが、一見重油にも見えるさらさらの液体はグランドマンの関心を引いたのか、大人しく椅子に座るグランドマンは、その一連の動作を眺めていた。
「どうぞ」 カップにコーヒー様のエネルギー嗜好品を注ぎ入れ、ソーサーごとグランドマンの前へ滑らせる。グランドマンはちらりとカップを見てから、まだ惜しそうに、マジックマンのシルクハットあたりに目をやった。
「………お砂糖を?」
ひょいとシルクハットを持ち上げ、うさぎを二羽ばかりと砂糖壷をテーブルに置く。グランドマンから注がれる視線が、なにかもの凄く面倒なものを見るような、心底がっかりしたような、取り敢えず元々高くもない株が急降下したような手応えを感じつつ、マジックマンは素知らぬ顔でうさぎの背を撫でた。
「うまい……」
ややあって、ぽつりともたらされた言葉に瞬きをひとつ。
「そりゃよございました」
「…………のか?」
「おやァ?」
言いながら神妙な顔で泥のような液体を啜り、噛み締めるように流し込むグランドマンを横目で見ながら、マジックマンはゆるやかに目を細めた。
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三日後くらいにパイレーツ(紅茶党)にきちんとした紅茶フレーバーエネルギーを入れてもらってああアレは美味くはなかったなんだなと納得するグランド。でもなんとなく飲みたくなってたまにやって来るよ。
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