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連休って何だろう おいしいの?
今日も明日もおしごとです。
朝っぱらからなにやってんだかな!
フラッシュマンの方が10cmくらいでかくて、倍ぐらいクラッシュマンの方が重いと萌えます。
そんな描写はどこにもないのだけれど。書けよ。
これが最新ナンバーか。
未だ体中におびただしい量のコードをつなげた青い機体を、クラッシュマンはまじまじと見つめた。
クラッシュマンが任務に出ている間に、最新機体の初稼働は終わったらしい。
その際の動作確認でクイックマンが整備室送りになり、本体も再整備になったと聞く。流石に最新機は戦闘能力がバージョンアップしているようだ。
俄に興味を持ったクラッシュマンは、洗浄室へ行く道がてら様子を見に来たのだが、生憎、噂通りに最新機体は第一ラボでスリープ中だった。
青を基調としたボディに、腹部や手足にちりばめられた黄色との対比が鮮やかだ。同じ配色でも、カラーをきっちりとセパレートしているエアーマンとは、また違った印象がある。
全体的に丸みを帯びたフォルム、とくに頭部はつるりとした透明な造りで、内側の機器がよく見えた。
透明なもの、というのはクラッシュマンになんとなく脆そうな印象を抱かせる。素材が強化ガラスにせよ特殊なコーティングを施しているにせよ、恐らく衝撃には強くなさそうだ、とクラッシュマンは意外に思う。クイックマンを倒した、と聞いたのだが。
もろそうだということはデリケートだということだろうか。どちらかといえばふてぶてしい類のつらがまえに見えるが、おや、そういえば鼻が低いな。何故かれの鼻はこんなにささやかだろう、まあ低かろうが高かろうがあろうがなかろうが、呼吸をするわけでもないし、よしんば呼吸をするためでもあったとして鼻の高低は関係が、あるのかないのか、いやしかしなんでだろう。低いな。
散漫と流れる思考を省みることなく、首を傾げつつクラッシュマンはその「低い鼻」を覗き込む。一瞬、手を伸ばしかけ、泥と酸化した黒いオイルで汚れた己のドリルアームに気づき、腕を下げた。そもそもドリルアームで顔を触ったり示したりするのは止せ、とクラッシュマンはメタルマンに最初の頃に躾けられていた。
ほんの僅かに隆起する鼻の様子に何故だかクラッシュマンはひどく興味をそそられる。ほぼ接写と言ってよい程、ごく間近でそれを観察していたが、不意にるるると細く唸る駆動音に動きを止めた。
それを寝息のようだと思い、クラッシュマンは口元へ聴覚センサーを近づける。無論、口元から音が響いているわけではないので、聴覚を研ぎ澄ましたところで、クラッシュマンが関知できたのは鼻孔から微かに排気が行われていることだけだった。
眠っているようなのにカリカリと処理音が聞こえる。ということは、目覚める前触れだろう。
微睡んで居るような、まるで夢を見るかのような。
スリープモードの境が曖昧であるのは、稼働間もない機体にのみ見られる特徴だ。普段意識することは全くないが、その状態はクラッシュマンにも覚えがある。
スリープモードからスタンバイモード、ノーマルシフトへの移行に、非常に時間をかけるのだ。その間、クラッシュマンは非常に曖昧で不安定な空間を垣間見た、そんな記憶をひっそり残している。
ゆらゆらとした感じはバブルの住まう水の中にも思えるし、ふらふらとした感じはシステムダウン一歩前の朦朧とした感じとも似ていた。その頼りなさは、不思議と懐かしさを伴う。
微かにうらやましさを感じて、クラッシュマンは鼻っ面を更に近づけた。
夢の名残、あのぼんやりとした空間の残り香のようなもの。
それを僅かでも感知できまいかというかのように、顔を近づけ、ふんと鼻を鳴らした。嗅覚センサーが感知したのは、真新しいオイルの匂い、動力炉のじわじわと暖まる匂い、それと、水に似た、何か知らぬ匂いだ。
それが顔回りから漂っていることに気付いて、クラッシュマンは首を傾げた。
起きてから聞くという思考には到らず、逡巡のち、クラッシュマンは手の代わりに己の顔を最新機体の顔へこすりつけた。
最も鋭敏な触覚器が指先だというのは、人間を摸して作られたヒューマノイドタイプには自然なことだ。
そして、手指の感覚が発達していない赤ん坊が口でものを確かめようとするように、手指がないクラッシュマンは口を最新機体の顔へ落とす。
顎先から頬までを唇だけで辿り、ちゅ、と目元を吸うと音がした。他機の顔など触ったことも、こんな間近で見たこともなかったが、存外、顔部分というのは柔らかいものだなとクラッシュマンは口を開けて鼻にかぷりと噛み付いた。低い鼻は食みづらいが、その低さが酷くクラッシュマンの気に入る。
鼻面をべろべろと舐め回し、唇でもごもごと舐っていると、不意に頬が引きつって強張り、口がびくりとわなないた。見たことのない反応を訝る間もなく、ドンと強めに肩を押される。
「な、ん、なんだよ!」
メンテナンスベッドにしがみつくようにしていた所為で、後ろに倒れることはなかったが、少しのけぞったクラッシュマンの目の前で、ばちりと目を開いた最新機体が顔中を黄色い掌で拭っている。焦ったような様子が物珍しく、思わずクラッシュマンはきょとんとした。
視線を右上からぐるりとまわし、なんだか目を三角にしている最新機体に向かって口を開く。
「鼻がの」
はな?! と声を裏返した最新機体はクラッシュマンと距離を取りたそうだったが、再調整中のため、幾重にも繋がれたコードの所為でベッドから降りることは出来ないようだ。もう一度顔を近くへ寄せると、首だけ引いて、少しでも距離を取ろうとする。
「低かろ」
かっきり五秒の間があり、低く呻くような、よ、と言う音を聞いた。
「余計なお世話だっつう、や、違ェ、関係あるかそんなのが。何しやがんだってんだよ!」
大声でクラッシュマンを退けようとする様子に、クラッシュマンは、ふと以前テレビで見たネコ科の小動物が、敵を威嚇するときに毛を逆立ててフシャアアアと必死になっている様子を思い出した。稼働直後に負荷を与えすぎているのだなあと思い至り、あれは怖がっているのだとメタルマンが言ったのを思い出して、宥めるつもりでクラッシュマンはべろりと口元を舐めた。
「こわくな、ぞ」
「怖ェエよ! なんで舐める!」
パニック状態に陥りかける機体を見つめ、クラッシュマンは動きを止めた。ついで自分の手を見つめ、ずいと顔前にドリルアームを持ち出す。
「あぶ」
怒りに染まっていた表情が一瞬で冷め、ぎょっと目を剥いたところで、クラッシュマンはさっと腕を下ろした。「な」とクラッシュマンが同意を求めると、ごくりと喉が鳴る。人間くさい反応をする機体だ。
高速でばちばちと瞬きを繰り返していた最新機体は、るるる、ううう、と忙しない駆動音を響かせる。今までクラッシュマンが見たことのあるどの機体よりも、なんだか忙しそうだなと思い、しかしこれは何だかいいな、とクラッシュマンはおっとり思った。
「なまえ、ア」
そういえば名前を知らない。じわじわとわく興味に、コアが揺れる気分だ。
「クラッシュマン。おま、がの、な」
知りたいのだ。
うっとりとクラッシュマンは笑う。
その顔を見ていた黄緑の光が隠されては見え隠されては見え、きれいなセンサーカラーだと思うクラッシュマンの前で、ぼそりと呟きがもたらされた。
「………フラッシュマン」
「……………ァッシャ」
「フラッシュ」
「ファ」
「フラ」
「ハ」
「……いやいいよもう好きにして下さい」
はあと大目に排気する顔は半分がた笑っており、クラッシュマンは目を瞬かせる。
フラッシュ、と名を呼べば、「はいよ」と面倒そうに返事が返った。
「フ、ルァッシュ」
「はいはい、なんすかね」
「ハアッシュ」
「言えてねーぞ」
「ファシュ」
「おいおいどんどん怪しいじゃネーか」
ふ、と、綻んだように零れた笑みに、クラッシュマンは再び目を瞬かせた。
ゆらゆらと揺れるような、きしきしと軋むような。
ああ、なんだかこれは、いいな。
つられるようにもう一度、緩く笑ったクラッシュマンに、フラッシュマンは呆れたように笑った。
2009/05/03 小説 Trackback() Comment(0)
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