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2024/04/19

砂に光る

大変お待たせ致しまして申し訳ございません!
6月にフリーリクエストをいただいておりました「グランドマンとパイレーツマン」です。
グランド初でしたが、盛り込めなかった分とか… どこかで出したい。
粗品ではございますが、楽しんで頂ければ幸いです。
ゆん様、リクエストありがとうございました!


…そういえば今回少し長くなってしまって思ったのですが、
もしかして行間… もう少し空けた方が読みやすいでしょうか。
今回はいつもより大目に改行設けてみたのですが、…どうなのかしら。
とはいえ、あまり空間多いのは自分が落ち着かないので
一行空間あけるんではなくて、行間調整とか…どうやんだべな。
少し考えてみます。

いつも拍手ありがとうございます!
お昼の時間にパチパチ頂いて気付いたのですが…
そうか、まだ夏休みなのか… いいなあ…



 実際に上陸してみると、地図で見たよりも更に小さな島だった。
 赤道付近に散らばった島のうちのひとつ、海面の上昇で今も少しずつ沈んでいる島だ。
 百年で元の面積の約三分の一までなってしまったという島は、それでも三十年ほど前まで、沈み行く島と運命を共にせんと住み続ける島民もいたらしい。しかしその後全て退去し、今は無人島となって久しい。

「殺風景なもんだな」
 お宝のにおいもまったくねえ、面白くもねえ。
 パイレーツマンは深く排気をした。キング直々に言い渡されたとはいえ、心が浮き立たない仕事というのは往々にして存在するものだ。たとえば今とか。
 やる気の欠片もなく呟いたパイレーツマンの横で、グランドマンは大きく口を開けたホゲールの顎から身を乗り出す。巨体が縁からはみ出て傾ぎ、パイレーツマンはおい、と声を掛けた。
「おい、落ちるなよ。もう少し浜に」
「十分だ」
 パイレーツマンの言葉を遮って、飛び出した巨体が浅瀬の水を打つ。
 足底からの逆噴射で、砂から数センチを漂っていた潮を盛大に吹き上げて、小器用に足下を濡らさず、グランドマンは数歩を飛ぶように駆けた。
 それに合わせてグランドマンの体重が一気に砂を周囲に弾き、パイレーツマンは湿った砂を顔から大量に被った。振り返らぬグランドマンは飛沫がもうもうと辺りに立ちこめる中を抜け、涼しい顔で浜辺に辿り着く。
「…俺に砂をかけるな!」
 パイレーツマンは既に地面を掘る準備に取りかかっているグランドマンに向かって叫ぶと、防砂コートを掴んで飛び降りた。

 グランドマンは一ヶ月のうち、確実に半分は地底に潜っている。年中あたりを掘っていて、掘る場所がいい加減無くなるではないかとパイレーツマンは訝るが、掘った場所が崩れたところでグランドマンに不都合があるわけでもないのだった。
 キングに言われて砂漠外にいるときでさえ、活動の大半は地下だ。
 地底作業に特化しているからというだけでなく、ただ単に地下に居る方が好きなのだろう事は、火を見るより明らかだった。
 地殻だけでは飽きたらず、マントルにまで到達するつもりだろうか。やりだしかねないことではあるが、それの何が楽しいのか、パイレーツマンにはさっぱりわからない。
「理解に苦しむ」
 ドリル音が、前触れなく変化する。
 それまで柔らかく砂を掻くだけであったのが、硬い岩盤に突き当たり、急にガリガリと耳障りな音を立て始めたのだと知れた。硬いと言っても、スプレッドドリルを放つまでもない。ものの数秒で砕け、砂混じりの重たい土砂を撒き散らして崩れた。
 今回パイレーツが受けた命令は、襲撃でも掃討戦でも、ましてや財宝強奪でもなんでもない。
 僻地の小さな島で穴掘りをするグランドマンの送り迎えだ。
 バスかタクシーか幼稚園バスかといった内容に、当然パイレーツマンは反発を覚え、散々ごねてはみたが、結局は言質を取らされて引き受けることになった。
「…何が楽しくてこんなモグラのお守りをせねばならん」
 呟きはするものの、本当はオート調整のホゲールを押しつけても良かったのだ。
 それをしなかったのは、海流や潮の流れによって微調整が必要となる機器類をグランドマンが扱いきれるかどうかに不安が残ったからだ。過保護にしているわけではなく、自分の道具を下手に扱われることに、パイレーツマンは我慢がならない性質だった。神経質な性質は常に面倒ばかりだが、それでももっと言ってしまえば、操舵手はパイレーツマンである必要はない。
 詰まるところ、あれこれそれらしく文句をつけてみても、パイレーツマンはその性格のアナーキーさとは対照的に、キングに対しては絶対服従なのだった。
 与えられる仕事の軽重如何にあれこれ思うことはあるが、基本的に逆らう気も、作戦をないがしろにする気もない。金色の首領直々に説明をされれば、最初からいやというつもりもない。

 黙々と掘り進むグランドマンを見るパイレーツマンの視線は、やる気がないという段階を半ば通り越し、諦観の域に達していた。
 グランドマンの仕事内容はざっくりとは聞いているが、一体何を目指しているのだったか。興味が失せたので下層フォルダにしまい込んでしまったらしく、直ぐには思い出せなかった。必要ないとして棄ててしまったのかもしれない。
 彼がこうして盲目的に掘り進むのも、今に始まったことではない。
 今日はたまたま仕事ではあるが、グランドマンは特別の任務に就いていない、言い方を変えればオフの日でも特に行動は変わらない。仕事のない日に仕事に精を出すのでなければ、これは彼の純然たる趣味ということになる。
「仕事の日も休みの日も掘って掘って掘って、…楽しいのかそれは。何かあるのか」
 片手で盾を構える姿勢で傘を自分の正面に差し掛け、パイレーツマンは尋ねた。
 防砂コートを着てきたのは、グランドマンに周囲に気を遣って掘り進む等という芸当を望めないからであり、傘を持ってきたのはそれだけでも砂を避けきれないのを過去数度の合同任務で知っていたからだった。
 辛うじて崩されずに残っていた岩の欠片に腰を下ろし、ビニール製の傘越しにグランドマンを眺める。ばさばさと容赦なく飛んでくる砂で、その姿はけぶって滲むようであったが、作業する姿を注視するつもりでもなかったので、パイレーツマンは頓着しなかった。
 ガリガリと進むグランドマンの背中は、ひどく鈍重ないきものに思え、パイレーツマンはへっと鼻を鳴らした。ただ闇雲に進むもぐらのようだ。
「ある」
 ごそり、不意にあっけない音を立ててグランドマンの掘り進めていた一角が、丸ごと反対側へ落ちた。
 周囲の砂色と僅かに色味の異なる土塊は、どうやら何らかの建物の一部に突き当たっていたらしく、よくよく見れば石を組んで壁を形成しているのが見て取れる。
「なにが、」
 ある、と一言だけ呟いた言葉が、何を指したものかを問うより早く、グランドマンはさっさと壁の向こうへ消えてしまった。体格に見合わぬ意外な素早さにパイレーツマンは低く舌打ちし、傘を閉じる。

 後を追ってばらばらと砂の落ちるトンネルを抜けると、急に空間が開けた。
 天井は遥か高く、巨大なホールといった地下空間は、どこから灯りを取っているのか、先ほどまでの窮屈な土砂の穴蔵に比べると格段に明るい。
 古代文明の神殿にも似ているが、材質やその他は随分と新しい様子から、神殿を模したどこぞの格納庫と判断する。周囲をざっと走査しつつ、地上と位置付けると、降りた海岸より、だいたい島の中央に向かったところと判断した。
 歪な円形を保っているのは、現在のホール以外が、土砂に埋まってしまっている為だった。
「……なんの施設だ?」
「倉庫だ」
 おもむろに辺りのコンテナを手荒に壊し始めたグランドマンは、中身を引っかき回しながらぞんざいに応じる。説明する意図の無い、省略すぎる返答はいつものことだ。
「沈む前のものか。なんのだ。武器か?」
 パイレーツマンの問いへ、グランドマンはひとつコンテナを横倒しにして答えた。
 地面に叩きつけられた衝撃でドアが緩み、破壊的な音を立てながらガラクタが飛び出してくる。何の統一性も脈絡もない、それこそガラクタと呼ぶに相応しい道具の数々だった。
 ハンマーやレンチに混ざって、中途半端な長さのパイプや鉄筋、蝶番やドアノブ、形も種類もばらばらな工具類が転がり出る。それらの隙間を充填するように、大小様々なボルトやナットがざらざらと音を立てて雪崩れた。
 大量の鉄材は、細かいながらも資源であるのは確かだが、パイレーツマンのコアは全く反応しなかった。心がときめく? まさかまさか。これは正しくがらくただ。
「何だこれは」
「ハズレのハコだ」
「ハズレ? おい、グランドおまえ何してる」
 ガサガサバリバリとけたたましい音を立てては、グランドマンはコンテナを次々漁って方々に投げ出す。明らかに、中身を物色しては某かをより分けていた。
 パイレーツマンの方へコンテナを転がしておきながら、手を止めもしない。手際よく鋼鉄の扉を剥いでは中身をざらざらと掻き回し、幾つかを選っては次の箱へ手を伸ばす。
 淡々と、しかし確実に夢中になっているグランドマンに些か鼻白み、パイレーツマンは目の前のコンテナから視線を移した。
 その後ろ姿には、さっきまで黙々と砂を掻いていた、修行僧の如きストイックさは影もない。
 黙々とした動きは同じだが、背中に滲むテンションの高さが段違いだ。
 さっきまでがもぐらなら、今は宝探しに興じる犬か、狩りに連れて行かれた猟犬か、訓練中の麻薬犬か、でなければ犬だ。
「お前の今日の目的は何だ? キングから何を言われてる」
 いつの間にあんな所まで上り詰めたのか、うずたかく積まれたコンテナの上で、ようやくグランドマンが動きを止めた。今日の仕事は、あまり大きくはないグランドマンの声がホールにささやかに降る。
「地下施設までの道を確保すること」
「………それだけか?」
「探査はお前がした」
 肩透かしを喰らった気持ちで問うたパイレーツマンは、平然と返したグランドマンの答えに顔を顰めた。事実だからだ。
「じゃあ何をガサガサやってる」
 見透かされているうえにいい様に使われているのが癪で、険のある声になったがどうでもいい。
 さっきから気になっているのだ。
 誤魔化すように憤然と鼻息を荒くしたパイレーツマンをチラと見遣って、グランドマンは少し考えるような仕草をする。十分に長い沈黙を苛々と待つ己の悠長さこそが不愉快で、爆破でもしてやろうかと防砂コートの内側にパイレーツマンが手を入れようとしたとき、グランドマンがゆっくりとコンテナの山から下りてきた。
 両手で何かを包んでいる。
 恭しげに捧げ持つ、その掌から、ころり、とこぼれ落ちたひかりを床に落ちる前に受け止めて、パイレーツマン
は首を傾げた。
 拳大の緑色の石だった。
 鈍くくぐもった光を放っている。宝石に類する鉱物だろうか、自身の宝物に関するデータを検索してみるが、パイレーツマンの知る中には見つからなかった。
 何にせよ、無骨で不細工な石は、パイレーツマンの気を面白いくらい動かさなかった。
「おいグランド」
「やらんぞ」
「堂々と横領か。楽しそうだな」
 フンと鼻を鳴らしたグランドマンは、さっき自分が蹴倒したコンテナから布きれを引っ張り出した。
 おまえと、言いながら布で戦利品をくるみ、パイレーツマンの方を僅かに睨む。
「一緒にするな。返せ」
 既に私物姿勢のグランドマンに呆れて、パイレーツマンは、無骨な緑の石を投げつけた。
「趣味じゃない」
 危なげなく受け取り、グランドマンは掌の中の不細工な石を、ふと何気なく撫でる。
 何が気を引くのか全く持って分からない、緑色の石だ。しかし、どこか大事そうな仕草であったので、つい注視してしまった。
 そして注視している自分に気付いて、パイレーツマンは鋭く舌打ちをした。
 これが、もしや、さっきホールに入る前にグランドマンが答えた「ある」だろうかと思い当たって、パイレーツマンは再度呆れた。しかし、パイレーツマンがどう思おうとも、グランドマンの鉄面皮を一瞬過ぎった、妙に穏やかな表情は正しく、あの不細工な石がさせているのだと知れた。
 全く持って趣味が悪い。もっと心を動かす財宝を知らないのかグランド。
 もっとあるだろう。ほかにもあるだろう。
 満足げなグランドマンの様子に、パイレーツマンの中でもやもやと、歯痒さと憤りのようなものが頭をもたげる。それが、明確な像を結ぶ前に、パイレーツマンは後頭部をガリガリとかくことで物理的に映像を掻き乱し、頭を左右に振った。

「理解出来ん」
 

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2009/08/19 小説 Trackback() Comment(2)

COMMENT

有難う御座いました!

 こんにちは、ゆんです。

 う、うわあああー! キタ様のパイレーツマンとグランドマン! 部屋中をごろごろ転がりまわりたくなるくらい嬉しいです……! 有難う御座いました……!
 幼稚園バスの運転手さんなパイレーツマンとマイペースなグランドマンが可愛らしくて仕方ないです……はあはあ! 思わず鼻息も荒くなってしまいます。

 お目当ての物を前にすると、わんころになるグランドマンがとってもキュートで、うっかりときめいてしまいました。きゅん。
 コート+ビニール傘の完全防備でちょこんと座って、グランドマンのお仕事が終わるのを待っているパイレーツマンを想像するだけで顔がにやけてしまいます!
 落ちるなよ、と声を掛けてあげるパイレーツマンの珍しい気遣いを、問答無用でスルーするグランドマン、のやりとりが凄くイメージ通りで大好きです……笑。

 キタ様にこの組み合わせのお話を書いて頂けたなんて、本当に幸せです……! 何度読み返しても顔が緩んでしまいます。
 最後にもう一度、有難う御座いました!

ゆん 2009/08/20  02:29 URL EDIT RES

こちらこそありがとうございました!

ゆん様、大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでしたー!
こんな二人で良いのだろうかとビクビクしていたもので、にやにやして頂けたなら…もうそれだけで書いた甲斐があります!
あ、あ、でも、欲しいところに欲しい感想を頂けて、嬉しいです…
パイレーツの気遣いとか色々を空気読むとか読まないとかのレベルでなく、土足で踏み倒すグランドとかいかがかと思った次第でした。かいてると段々トムとジェリーな気持ちで、楽しくなってきますね。

リクエスト、構って下さってほんとうにありがとうございましたー!

キタ 2009/08/21  01:28 EDIT RES

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