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2024/04/20

あの子が欲しい

五月になったらアンソロ原稿の〆切だから、いまならいろいろやっちゃえる?!
じゃあクイフラクイフラあとクラッシュ!
とか思って書き始めたんだけど、なんか気付いたらメタルだったよ。あれえ?

【注意】
 ・いつもの通りの帝政君主・横暴メタルがいます。
 ・突貫です
 ・今日のフラッシュはいつもより頑張るよ!




「異議あり!」

 ワイリーオリジナルにして処女作、DWN009メタルマンと言えば、長きにわたりその絶対的な暴君カリスマと鉄拳制裁において、あくの強い弟どもを束ねてきた独裁者である。
 その筋金入りの暴力主義は、DWNいちの好戦家クイックマンをして「気が短い」と言わしめるほどである。
 一旦暴走した彼をダウン以外で完全に止めうるのは、彼が唯一にして絶対と自らの主張を持って仰ぐ、産みの親であるドクターワイリーただ一人だけだ。手のつけられなさでいえば、特技は暴走のクラッシュマンとどっこいどっこいだというのだから、その程度が知れよう。
 メタルマンのことを冷静沈着でキレモノと思っている者は、性根が下僕属性のドエム嗜好でなければ、たまたま出くわしたタイミングがよかっただけの話だ、と弟達は思っている。
 さて、そんな長兄に対して、青い六男坊が反駁をする機会は、さほど多いというわけでもない。
 常々、自らを「精密機械ですので取扱いにご注意下さい」等と評価しているフラッシュマンである。もっと以前に比べて、だいぶ丸くなったとはいえ、未だに口より手が先のメタルマンに、真っ向から反抗するのはなかなかにコアが縮む思いをする。
 それでも、フラッシュマンが食ってかかるときが、稀にある。

 廊下で長兄にたった一言で却下されたフラッシュマンは、我慢の限界とばかりに壁を左手で叩いた。
「何でこんなに申請してんのに通らねえんだよ、フレンダー配備!」
 右手で、わざわざ今まで提出してきた申請書の複製をモバイルコンソールをプロジェクタ代わりに使って、ずらりと壁に投影して見せる。ナンバーが10を越え、徐々に嵩の増していく文書をメタルマンが覚えていないわけもない。
「申請書? フレンダー性能に関する可能性と汎用性についての論文だと思っていたが」
 ちらりと壁を一瞥して、顔色ひとつ変えずにメタルマンは言った。痛烈な返しにもめげず、フラッシュマンはぐっと脚を踏ん張って、更に言い募る。
「読んだんなら解ってもらえたんじゃネエの、一体で良いんだよフレンダー! フレンダー!」
「くどい。駄目なものは駄目だ。配備は却下する」
「納得のいく回答を頂いておりませんがねえ!」
 珍しく食い下がるフラッシュマンを前に、メタルマンは僅かに目を細めた。
 重大な事実を告げるときの、重々しい間が二人の間を流れる。そして、常の素っ気なさでメタルマンはきっぱりと口を開いた。

「俺は犬が嫌いだ」

 長い沈黙が落ちる。
 長兄はタイムストッパーに対する抗体がインストールされているのみならず、タイムストッパー自体の発動理論を実現せしめるだけの改良ないしは改造が加えられていたらしい。咄嗟に回りくどい言葉で現実を斜めに反らす程度には、フラッシュマンは今聞いた言葉を疑った。処理速度が急激に落ちて、俄に演算数が増す。
「……なに?」
 恐る恐る、あたかも「聞き間違いですよね?」と言わんばかりの慎重さで、フラッシュマンは兄へパードン? を返した。自分の言葉に納得した様子で一つ頷いたメタルマンは、今度はもっとあっさりと口を開く。
「好きになれないと言うよりも、好きじゃない。むしろ積極的に嫌いだ」
「……それが俺のとこにフレンダーこないのとどう……え、なに、あんたの嗜好なの?」
「俺の嗜好だ」
 厳正にして慎重な検討を重ねた上の却下ではなく、ただ純粋にメタルマンの、この暴君の上に立つべくして立っているロボットの嗜好で却下されたのだ、と長兄は認めた。
 あまりにもあまりに過ぎるカミングアウトに、フラッシュマンの手にしていたモバイルコンソールがミシリと軋音を立てる。
「納得いきま、せん! 横暴だ!! なんだそれ!」
「却下する」
「圧政だ! ワンマンだ!」
 しゃあしゃあと答えたメタルマンへ、フラッシュマンが更に食ってかかる。
 今日はいつもより積極的だな。メタルマンはフラッシュマンに対する評価位置が微妙にずれたことを考え、チラリと背後を見てから、親指で後ろを示した。
「文句があるなら訓練施設に来い」
 ぴたり。と口を閉ざしたフラッシュマンは、難しいものを飲み込む恐ろしい顔でメタルマンを見る。もごもごと、口の中にある罵詈雑言呪詛その他を必死で飲み込んでいるようだ。
「ウッドは何で良いんだよ」
 なんとか復帰を果たしたフラッシュマンは、既にコア拍の変動で急激で無駄な燃料減りによる負荷――人手言うならば頭痛とか息切れみたいなもの――を感じながら、それでも頑張って末の弟を持ち出した。
 末のウッドマンの基地には、フレンダーだけでなく、数々のアニマル型ロボットが溢れているのだ。
「俺の自基地からウッドの基地は遠いが、お前の基地は俺の基地の隣だからだ」
 迷いも躊躇もない、ごくあっさりとした物言いは、もはや潔い域に到っている。
 そんなりゆうで、とか、ひどい、とか、もうほんと泣きたい。内心で一敗どころか何度も地にまみれる気持ちでありながら、フラッシュマンは屈しそうになる気持ちを何とか奮い立たせた。
「ち、かいって……いっても、俺のとこから出さなきゃいいんだろ」
「お前カスタマイズするだろう」
 投げられてもいないのに、メタルブレードが刺さった気持ちだ。ばっさりと切り込まれ、先程のダメージから完全には立ち直っていなかったフラッシュマンは、不覚にも即答が出来なかった。
「………なことねえよ」
 口の中でもそもそとした物言いなってしまうのは、やましいところがある故に他ならない。カスタマイズを禁止される覚えはないが、どうやらすると言ったら到底許可が下りそうもないので、頷くことには躊躇いが残る。内心でフラッシュマンは「カスタムするわけじゃないもんグレードアップだもん」と呟くことにした。
「大きい声ではきはき答えろ」
「しますん!」
「不明瞭だ」
 スパァンと良い音を立てて、手にしていたボードで左側頭部を張られる。しかし、ここで負けたらイカンとばかり、なんとか踏ん張ってフラッシュマンは声を張り上げた。
「しません!」
「嘘をつくな!」
 間髪入れずに返すボードで右側頭部を張り倒され、フラッシュマンはよろめいた。
 何だってこんなに暴力的なのだこの兄は。
「ぶった! 二度もぶった!」
「もう一発叩くと右左右でバランスが取れて良いだろう」
「いみがわかブッ、なんなの! なんなの何で殴んの! 理不尽だ!!」
 計三発のボードビンタを喰らって、ついでに壁に頭をぶつけたフラッシュマンは、当然のように喚いたが、それを見たメタルマンの反応は至極薄い。薄いというか、冷淡だ。長兄が淡泊なのは今に始まったことではないが、思慮深げにボードの裏を二度撫でたメタルマンは、困った弟を見る顔で一つ頷いて見せた。
「俺が何の根拠もなく、ただの決めつけで言ってると考えるんだな」
「純粋な嗜好で以て否決した癖に、何で堂々と」
「ピピR12号」
 正当な批判を続けるつもりだったフラッシュマンは、メタルマンの口から出た単語に、思わず口を閉じたが、驚いた所為でグウと喉から変な音を出した。
「テリーダブル改」
「うぐっ」
 ワイリーが自分の息子たちに部下の改造その他を禁じたことはないが、一応の報告は義務と言うよりは常識だ。
 しかし、これらはいずれも、フラッシュマンが秘密裏に改造を施した廃棄体につけられた名称である。
 前者は事故などでバラバラになり、リペアが叶わなかったピピ数体の破片を寄せ集めて作ったイーグルタイプの攻撃機体だ。後者は同様にリペア不可と見なされたテリーを元に改造したネコ型機体で、いずれも完全なアニマル型だった。
 それが現在フラッシュマンの元にどうして居ないのかと言えば、知能をちょっとだけ動物よりに設定したところ、ものの見事に逃げられたのである。全く懐かなかった。痛い経験である。そしてフラッシュマン自基地から逃亡した二機は現在半野生化しており、たびたび貯蔵庫やキッチンから燃料を失敬してはメタルマンの不興を買っている。
「お前の所から出ないと言ったかフラッシュ」
「スミマセンでした」
 自分で餌を見つけ出せるなんて、改造した俺も鼻が高い等と言おうものなら、なけなしの鼻を気前よく削ぎ落とされること必至である。

「……なあせめてアニマル型を配備してくれよ一体くらい~側付きに、いや、助手にとか」
 今日のフラッシュマンは頑張る。
 当初の勢いはどこへやら、いつもの通りの頼み込み、いやほとんど泣きつきのような状態でしかないが、頑張れるときに頑張るのがいい。何しろ、もう既に今日は三度も叩かれているので、あと一度くらい殴られても同じに思えたのだ。
「……分かった」
 その執念が通じたのかどうか、長めに沈黙を取ったメタルマンは、一度背後を窺うような仕草をしてから、ボードを左手に抱え直し、ぽつりと呟いた。
「まじで!?」
「お前のアニマル型に対する情熱は伝わった」
 喜色を満面に浮かべたフラッシュマンが、思わずメタルマンのボードを持った左手をヒシと抱き、メタルマンもさらりと頷く。まじでまじでと繰り返しながら、顔を綻ばせる弟を、可愛いと思うだけの情を、メタルマンはきちんと持っているのだ。
「やったメタル愛してる! …ん、なになに、何この手おにいさま」
 メタルマンの右手が、静かにフラッシュマンの左手を掴む。
「愛は試練で戦いだと最近読んだ本に書いてあった」
「あれあれちょっと待っ、待って待って待てってば! 俺そっち行きたくねえンですけど!」
 俄に怪しくなった雲行きが、既に土砂降りであったことを悟ったフラッシュマンが藻掻くより先に、メタルマンはぐいとフラッシュマンを引き摺った。
「愛は勝ち取れフラッシュ」
「俺は平和的解決が好きだ!」
「却下する」


*****

おまけの後日1
「懲りないやつだの」
 メンテナンス台に乗ったぼろぼろのフラッシュマンを前に、半ば感心したようにワイリーは息を吐いた。隣ではエアーマンが着々とリペアの準備をしている。
「ううう何であんなに強固に駄目なのか意味わかんねえよー」
 そんなに欲しいなら自分で作ればいいだろう、とワイリーは思うのだが、かれら兄弟のことに殊更口をだすのも憚られる。(メタルがいいって言ったらね、という方針)兄弟喧嘩は兄弟内で片が付くのが好ましく、もしフラッシュマンが泣きついてきたら取りなすだけはしてやろうかな、と考えている。
「フラッシュ」
 アニマル型が欲しい欲しいと繰り返す弟の肩に、ぽんと手を置いて、エアーマンは優しく目を細めた。

「クラッシュが居るだろう」
「ひでえ」


おまけの後日2
 ああひどい目に遭った、とメンテナンスルームを出たフラッシュマンは、廊下の壁に凭れている赤い機体と鉢合わせた。出たな通り魔。ぎくりと肩を振るわせたフラッシュマンの背後で、ドアは静かな音を立てて閉まってしまった。
「フラッシュ」
 こちらを向くグリーンのランプから視線を外すこと適わず、フラッシュマンは気圧されたように僅かに顎が上がる。
「俺も」
「もうやだ」
 簡潔な言葉で希望を述べたクイックマンの声に、半ば被せるようにフラッシュマンは拒絶する。それにハッキリと渋面を浮かべたクイックマンが、舌打ちでもくれそうな顔で続けた。
「メタルとして俺とはしないのか」
「お前ら面倒くさい!」

 

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2010/04/29 小説 Trackback() Comment(0)

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