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2024/04/25

クロックロッカー


提出したら安心して寝てしまって、自ブログでアップするの忘れておりました。申し訳ございません。

こちらはeukaryote/prokaryote様にて開催されている、プロット共有企画の参加作品です。
プロット企画詳細についてはこちら

・フラッシュマンとクイックマンがメインです
・破壊描写、オリジナルキャラあり

7300字くらいありますが、分けてもたかが知れていることと、いちいち移動して頂くのもお手間かな、と思いまして、お畳みからまるっと突っ込んであります。スクロールバーが未だかつて無い細さ。


 

 

 衝撃による14.25秒の動作停止から回復しました。
 論理回路正常情動回路に7%の揺れカームダウン推奨システムトラブル無し全身スキャンを開始します積載荷重オーバー胸部装甲3%陥没コア郭を圧迫しています左足膝部第一アクチュエーターケーブルが外れています体幹部産熱量8%上昇作業効率2%低下動力炉第二エネルギー管破損有りエネルギーコスト19%増左腕外5C表面亀裂確認後背部に―――

 フラッシュマンが目を開くと同時に、全身のあちこちに破損があるぞとセンサーが喚き立て始める。鈍く、全身に響く痛覚センサーの訴えもそのうちの一つだ。
 言われなくても分かる嫌な感触に、フラッシュマンは一度開いた目をもう一度ギュッと閉じた。やべえコレ胸郭イってるわ。
痛い重い以前に、酷い疲労感を感じて、フラッシュマンは圧縮されて堪った空気を口から吐き出した。
胸部にのし掛かる瓦礫を押しのけ、柱の下から這い出ると、がちゃん、ばらんと瓦礫の山がバランスを崩して裾を広げる。振ってきた壁の欠片を脇に寄せ、尻をついた。
 体の左側に強く衝撃を受けたか、左側部全体の挙動にやや違和感が走る。しかし、優先すべきは体幹部だ。
腕や脚よりも、フラッシュマンは動力炉の点検に掛かった。壁のコンクリート、梁の鉄筋、断熱材らしきボードやガラス、様々なものに薙ぎ倒され、下敷きにされた所為で装甲も防護布もぼろぼろだった。
 耐衝撃性に優れた強化繊維で編まれている防護布は、それなりに高価なものではあるのだが、ここまでぼろぼろではもう使い物にはならない。その辺を拭いて捨てるしかあるまい。
 大きな裂け目から手を入れ、いっそ手間が省けていいわとフラッシュマンは半ば面倒な気持ちで鼻を鳴らす。手早く胸部装甲をずらし、開いた装甲の隙間から内部の破損箇所を手で探ると、果たしてエネルギー供給管の一本が根本付近で曲がっているのが分かった。
 ひしゃげて曲がった管は、燃料漏れこそ起こしていないものの、その流れは殆ど止まっている。
 あちゃァ、脳内でのみ息を吐き、フラッシュマンは捻れた供給管の両端を締めてエネルギーの供給を断った。渋滞を起こしながら、じりじりと流れるのも危険には変わりない。
 取り敢えず、管が折れてないのは幸いだった。修理を施そうにも、この状態では換装する以外に直す手がないし、放って置いて管が破裂でもしたら面倒だ。管がいかれてしまったら、穴を塞ぐことも出来ないうちに、五分と経たず燃料が尽きて動けなくなるだろう。
 燃料切れの強制終了など、無様にも程がある。全く持ってごめんである。
 メインの供給管を断って、敵陣まっただ中でサブ管のみの稼働では心許ないが、出力を三割程抑えなければならないという程度だ。なんとかなる、と胸部パーツを元に戻し、フラッシュマンは淡々と手を動かしながら、ふ、と排気を促した。

 

 DWNの量産工場があるとか言う、馬鹿馬鹿しいにも程がある与太を受けて、腰を上げたのはクイックマンとクラッシュマンだ。
 ロボットだというのに血の気の多い兄どもは、その噂が余程腹に据えかねたのだろう。フラッシュマンと言えば、笑い話のつもりでその話題を提供したのだが、気付けば引き摺るように連行され、無理矢理件の研究所まで、拉致されてしまった。
 呆然と研究所の門扉を見つめるフラッシュマンの前で、挨拶代わりにガードロボットを蹴倒し、クイックマンは「壊すぞ」と宣言した。
おいおい、半ば止めるつもりで口を開いたことに気付き、自分の善良な小市民ぶりが面白くて半笑いになる。世界征服を企てる団体の一としては、酷く間が抜けている。
そうは言っても、不正確な噂で研究所を一つ吹っ飛ばす、という荒技は、フラッシュマンの好むところではない。
「まじか」
「マジだ」
 フラッシュマンの小市民的な常識をはね除けるように、クイックマンの答えはきっぱりと迷いがない。
 クラッシュマンもまた、とうに門扉を吹っ飛ばしてずんずんと先へ行ってしまい、クイックマンも今にも進み出しそうだ。
「クイック」
「博士の名を騙るようなアホは潰す」
 文句があるのかと問われてしまえば、フラッシュマンは返す言葉に困った。
「まあ、その主張には激しく賛成だわ」
平時、己のことにしか興味がないようであるクイックマンは、ときおり、身内の侮辱に対して、激しい怒りを見せる。
 それはドクターワイリーに関することが主だ。特に、ドクターが軽んじられることを嫌う強さは、殆ど禁忌と思い定めているのではないかというレベルだった。
 フラッシュマンは情報に親しむ環境上、下らない流言や誹謗中傷には免疫がある。DWN全体に関することだけでなく、個人攻撃にもすっかり慣れてしまった。
他の兄弟機に比べ、純粋な戦闘能力が低いだの何のと馬鹿にする声も拾いつくして、大体のパターンは把握し、最近ではバリエーションに拡がりが見られない、と逆に馬鹿にする事も出来る。
 免疫があるというより、恐らくは悪意に晒されすぎて麻痺してしまっている。
 情報収集を得手とするものの宿命と割り切って作業を続けてきた結果、フラッシュマンは情報攻撃にはクラッキング等のフィジカル攻撃だけでなく、デマゴギーから成るメンタル作用にも動じなくなったのだからこれはプラスだ。
「けどじゃねえ。行くぞ」
 それでもたまにこうして、どことなく後ろめたい気持ちになるのが、自分の劣等感によるものだと言うことを、フラッシュマンは何となく知っている。自覚していたところで、酷く透明な光り方をする目玉に会っては、フラッシュマンはそれに対抗する術を未だに見つけられない。
「…アイヨ」
クイックマンの潔癖さがあまりに新鮮すぎて、フラッシュマンは戸惑ってしまうのだ。


 研究棟の中を進む道々、どこにそれだけの兵隊を隠しているのか、次々と現れた警備ロボットの数はフラッシュマンが思っているより余程多かった。それらはことごとく、クイックマンが蹴散らしていったが、何しろ数は多く、最上階まで昇ったところで一斉襲撃に有った日には、いつの間にかスクラップの山が出来ていた。
「拍子抜けだな」
「だから、言っただろ。量産なんか出来る訳ねえんだ」
 ガセに決まってるだろうがとフラッシュマンが反駁すれば、クイックマンは首をぐるりと回し、不満顔でブーメランを床に突き立てた。肩慣らしにもならないと鼻を鳴らす。
戯れに足下に転がったレーザーガンを蹴り飛ばすと、渦と積まれたもう動かない警備ロボットの山に突っ込んでいった。その拍子に転がり落ちた装甲の破片とガラスの破片が、けたたましく鳴り響く警報に共鳴して、ピリピリと小刻みに震えている。
「…しかし、聞いてたのとだいぶ違う感じ?」
「研究所、にしてはガードが多すぎるな」
「いや、アレガードロボじゃねえだろ。戦闘用チップ積んでる。割といいやつ」
 呟いたフラッシュマンにクイックマンが頷きを返す。
聞いていた正当な評価は「中規模の強化繊維の加工技術研究所」だ。いま、部屋の中に転がるクイックマンが倒した警備ロボットの数だけでも、おびただしい事この上ない。
それも、工場や研究施設によくいる、画一的な挙動しか示さない警備システムではなく、もっと実践的なチップを積んでいる。それにしてもクイックマンの的ではないだろうが、金はどこから出てるんだろう、とフラッシュマンは山を見遣った。
「兵器屋でも始めたかなあ…」
 それで変な噂がたったんじゃねえの、とフラッシュマンが言えば、クイックマンは不満そうに腕を組む。
「研究員は避難済みか?」
「んーセンサーに反応ねえし、ここ無人だな。監視カメラの量が半端ねえから、どっかで操作してンだろうけどよ」
「クラッシュの方か」
「さあ。ていうか、建物もなんかあちこち弄ってンなあ。五階立てじゃなかったのかよ」
 六階だしここ、と呟きながら手元のコンソールからホログラムビジョンを立ち上げ、見取り図を出して見せる。フラッシュマンの手元を覗き込んだクイックマンも、軽く首を傾げて三階のフロア中央を指さした。
「ここに柱は無かったな」
「代わりに防火シャッターがあったっぽい」
 柱が少ないんだよな。
口に出してみてから、フラッシュマンはハタとあることに思い至り、勢いよくクイックマンの顔を見た。
「やべえ」
 フラッシュマンが言葉を続ける、その前に、どど、階段を駆け上がってきた警備ロボットの群れが、フロアへ雪崩れ込んできた。
 振動で、パラパラと警備ロボットの山から、何かの欠片が転がり落ちる。黄色の小さな破片、ねじ、レーザーガンの柄、コンクリートの屑。コンクリートの欠片。
ブーメランブレードを構えようとしたクイックマンと、中程に立っていた二人に殺到するロボットの群れ。
「駄目だ! クイック、」
 床が崩れる、フラッシュマンが言うのに被せるように、天井がどうと崩れ落ちる。連鎖という間もなく、すぐにフロアの床が、ごそりとすり鉢状にまるごと陥没し、抜けた。
警備ロボットの一体が、傾いた足場に転び、弾みがついてスライディングの形でフラッシュマンの足元に突っ込んだ。バランスを建て直す間はなかった。
タイムストッパーへ向かった意識が、視界の縁を過ぎる赤い機体を見た瞬間に霧散する。

 

 全身のスキャンと応急処置を施して、フラッシュマンは重い腰を上げた。左膝と腕に妙な違和感があったものは、手持ちの補修パーツで何とか事足りた。さて、溜息を一つ吐いて、周囲を窺う。
 コンクリートの粉塵がもうもうと舞い上がり、当たりは灰色の靄で覆われていた。
 時折思い出したように、遠くで壁だか床だかが崩れる音が響くと、濃度の違う靄が混ざり合ったり押しやられたりしながら宙を流れていった。ぐるぐると渦巻きながら、焦れったい程にゆっくりと動く靄は、僅かに残る壁や天井を撫でつつ、頭上に開いた大きな空洞を昇っていく。
 生き物のように壁や床を伝う粉塵の流れから、フラッシュマンは地下階まで押しやられたらしい、と結論づけた。華奢な地上階にくらべて、そこかしこに太い柱が覗く地下階は、あちこちが瓦礫や土砂で埋まっているものの、逆に瓦礫が積もって空間を保持したのか、立って歩くだけのスペースがあった。
 重量のあるロボットが最上階に堪った所為で、強度に耐えかねて床が抜けたのだ。もともと五階分の設計を施していたものを、六階に直し、且つ柱を減らしていた所を見ると、最初から強度には問題があった可能性が高い。
兄どもは大丈夫だろうか。
妨害電波が出ているのか、ただの不調か、通信回線に何度か呼びかけて見たが、兄二人が返事をする気配は見られなかった。
心配するまでもなく、最もピンチに陥っているのは恐らく自分だ。何しろ、どうやって出ようかを探らねばならない。
クラッシュマンはああ見えて、爆破も崩落も破壊に関しては専門だから、おめおめ床をぶち抜くようなへまは踏まないだろう。夢中になるあまり足下が疎かにならなければ、迎えに来てくれる可能性が高いのはクラッシュマンだった。
クイックマンは、あのとき、辛うじて警備兵を踏み石にして窓まで飛ぶのが見えたから、恐らく無事だろう。
そして恐らく、激怒していることだろう。
「………ああ」
 タイムストッパーを使わなかったことに対して、クイックマンは不満を感じているはずだった。
チャージが間に合わなかったとか、あのタイミングで使っても意味がなかったとか、言ったところで通じる相手ではない。
 クイックマンは自分が庇われたと思っているに違いなかった。
「………面倒臭ェなあ…」
 どう言いくるめるかに思考を傾けたフラッシュマンは、一瞬、警戒レベルが下がった。センサーが熱源を感知し、瓦礫と一緒くたになった警備ロボットの中に、完全にダウンしていないのが紛れていると判断したときには、既に跳びかかられていた。
「侵入者発見、」
 がしゃん、ばらん、飛び出してきた黒っぽい機体が振り回したブレード状の武器が当たって、近くの山が派手に崩れた。左側に来た一撃を身を捩ってかわし、崩れた山をバリケード代わりに距離を置く。
「なんだ、さっきのと性能がえらい違、う」
 ああびっくりした、態とらしく肩をすくめて襲撃者を揶揄おうとしてから、フラッシュマンは、ぎしりと音が鳴りそうなほど表情を硬くした。
さっきまでの警備ロボットより、ヒトに近いシルエットをしている。俊敏な動きで武器らしいブレードを振り回す、それについている顔は、ヒト型のそれ、目が二つ、ハナがひとつ、口がひとつ――、整った切れ長のアイデザインと、通った鼻の形、酷く見慣れたそれ。兄の顔。
「侵入者、機影よりDWN014フラッシュマンと確認」
 チリチリとアイセンサーが点滅して、ノイズの混じる複合音声で発声する。にい、と口角を上げる顔はクイックマンと同じ顔をしている。ただ妙に貼り付くそれが、酷く違和感があった。
 これが噂を構成した要因の一つか。フラッシュマンは僅かに目を眇めた。
「悪趣味だな、まったく」
 フラッシュマンの言葉を吟味するように、再びアイセンサーがチリチリと瞬く。プログラム処理の遅延か、それともどこかと連絡を取っているのか――、思考を中断させるタイミングで、おもむろにクイックマンもどきがブレードを振り上げ、フラッシュマンが盾がわりに見据えた瓦礫の山を打ち払う。さっきのガードロボとは比べものにならないパワーでの一薙ぎで、ごっそりと瓦礫が吹き飛ばされた。
詰められる距離に、フラッシュマンはモドキがブレードを持つ方向へ身を返した。その回避行動をあざ笑うように、ばつり、と衝撃が走る。
 肘から綺麗に切り落とされた右腕が、それこそ宙に止まったように見えた。
 切断された場所から、刃の干渉を受けて軌道が変わったフラッシュマンの腕は、体とは別の方向に吹っ飛んでいく。刃先で引っかけられるようにして壁に叩きつけられたフラッシュマンを置いて、右腕は美しい弧を描き、黒い機体の手の中に飛び込んでいった。
 フラッシュマンの右腕をためつすがめつ、しげしげと眺めて、そのDWNモドキは愉快げに鼻を鳴らす。ぶらぶらと、さして重たくもない鉄の塊を、宙に投げたり掴んだりして弄び、バスターの砲身をのぞき込んでみせる。
「随分とちゃちなオモチャを装備してるじゃないか」
 声高に告げる声が得意げだ。口角を上げた顔は、既視感のあるもので、しかし完全に一致しないのが、どうにも気持ち悪さを残す。
「なんだ、喋る――ああ、スピーカーですか担当者さん」
 痛覚処理を整えてフラッシュマンは腰を上げた。やれやれ、と呆れた溜息をついたのがお気に召さなかったのか、一瞬モドキが目を光らせた。ざらざらと走るノイズ混じりの声も鼻息も、ひどく耳に障る。
「…これは量産機なのでね、発声器官は後付だ」
「あらァ、DWNの量産って聞いたんだけど。面だけとはなぁ」
「黙れ。タイムストッパーさえなければ、戦闘機としては二流のおまえでは手も足も出まい」
「わざわざ武器を取り上げ無くったって、俺はどっこも怖くねえよ。『二流』だし?」
「開き直りか、サポートタイプらしく命乞いでもする気かね」
 笑いを含む声が、侮蔑に歪んでびりびりと割れて響く。戦闘型として作られた機体へ押しつけるには、確かにその響きは侮辱以外の何物でもない。何より、己ではなくドクターワイリーへの。
「あのなあ」
左手で首の後ろをゆっくりと撫でる。二流はどっちだか。小さく呟き、手のひらで首後ろの縁をゆっくり撫でた。
「補助型だの後方支援機だの、運動音痴だ鈍くせぇだ、もう聞き慣れてんだよ。今更なの、そういうの」
 傑作と言われながら、純戦闘面では評価の低いことを、気にしたことがないわけでは、無いけれども。
「腕なんか、メタルにもクイックにも散々斬られてんだ」
 久々と言えば久々だが、自慢にもならない。
流石に籠もる自嘲を誤魔化すように、フラッシュマンは左手に持った棒をぶらぶらと振った。
「ハハハ、くっだらねえ」
 声を出して笑えば、白々しさに馬鹿馬鹿しくなる。
「何かおもしろいかね、まあいい。研究材料には面白そうだ。完全停止は惜しいかな」
 自分が圧倒的に有利と見たのか、うきうきと声を弾ませるような喋り口が滑稽ではあるが、やはり不愉快だった。
「そういう下心がお有りでしたか。ってもね、こんなきれいに切っちゃって、ジェントルすぎんじゃねえの?」
 ねえ、と暗く笑えば、モドキの声が訝るように歪められた。
「痛々しく破壊されるのがお好みかね」
「それはごめんだなあ」
 ポン、フラッシュマンは左手の上でそれを宙に投げた。
放物線を描いて再び手のひらに落ちてくるそれをもう一度、ポンポンと二三度。弄びながらハハハ、声をあげて笑う。
 フラッシュマンの手遊びが何か、訝りながらカメラアイを引き絞る音がする。反応の鈍さは、カメラアイが汚れているからだろう。
表面をなぞるだけで、これは模倣ですらない。パワーを多少強化して、量産機の顔をそれらしく作り替えただけの張りぼてだ。
 不意ににたあ、と目を細めて笑ったフラッシュマンは、宙と手のひらを行ったり来たりするそれを、しっかと掴む。棒状の一端を掴んで、気怠そうな仕草でぐるぐると回した。
「あんまぐちゃぐちゃにすんなよ。パーツ拾って帰るんだから」
 ぐるぐる回るそれが、何であるかを悟り、モドキはぎしりと肩をならした。
「な、ばかな」
 フラッシュマンの、みぎうで。
 ひどく人間くさい、しかし、もっとも硬い表情を見せるメタルマンにも及ばない拙さで動揺する。動揺を伝えたのは彼ではなく、彼を操る技術者の操作ミスに違いなかった。
「うそだ、タイムストッパーは確かに切り離した!!」
「もっと上等なゴミでリサイクルしろ」
 ジャンク品にもならねえ。
 フラッシュマンの言葉を受けて、にたりと笑ったクイックマンは、しかし目だけひどく冷えていた。逡巡も躊躇もなく、モドキの背後に立ったクイックマンは、巨大なブーメランを真横に薙いだ。
「出来の良いラジコンだったと思うぜえ」
 嗤ったフラッシュマンの声が聞こえたかどうか、胴を二つにされたクイックマンもどきは、断末魔も上げることなく機能を停止させた。

「無事か」
 動かないモドキから興味を失い、そういえばとクイックマンへ尋ねると、不愉快そうに眉間に皺が寄る。
「おまえがどうだ」
「いや、だってタイムストッパー」
「射程外だったんだろ」
 苦虫をかみつぶしたような声を拾って、フラッシュマンは周囲をぐるりと見渡した。
「…バスター抜きで発動させたから、巻き込んだかと思ってびびったんだけど」
粉塵の影響で、射程に某かの影響が出ているのかも知れない。ありがてえと呟いたのが聞こえたか、一瞬眉間の皺をほどいたクイックマンが、一つ溜息をつき、かつかつと踵を鳴らす。
あんまり怒っていないようでよかった、フラッシュマンも溜息をついた。ついたところで、突然強かに側頭部を張られる。衝撃で2メートルほど飛んだフラッシュマンは、ごろごろと転がって瓦礫の山にどさりと突っ込んだ。
「なにすん、だッ」
 片手がないせいで起きあがるのに時間が掛かっていたところを、上から踏みつぶされて呻く。グエと音が出たのは破損箇所を圧迫されたからで、痛い訳ではなかった。でも出来れば胸部はやめて欲しい。
「鈍くさいだの」
 恐ろしく低い声が、頭上から降ってくる。
「運動音痴だの、二流だの、へっぴり腰だの、ハゲだの、ノーコンだのと好き勝手」
「一部言ってないんですけど」
 小さく呟くと、踏む足に力を込められてフラッシュマンは口を閉じた。
「自分を貶めるのは見苦しいからやめろ」
 鋭く刺さるクイックマンの言を受けて、フラッシュマンが反射的に謝れば、クイックマンは苛立たしげに違う、とそれを遮る。
「博士と俺のことはいい。お前はお前を貶める癖を改めろ」
 ひとの言い分を聞かない人間に諭されるくらい、頭に来るものはない。この兄に、癖を直せとか言われたくなかった。
「腕一本なかったところで、お前の存在意義は揺るがなかっただろうが」
 声は、上から降ってくるので、フラッシュマンはクイックマンがどんな顔をしているのかが見えない。反駁したいことは幾つもあったけれども、馴染んだ音が耳に心地好く響き、フラッシュマンは押し黙ったまま、ただ床の上に散ったガラスを見つめている。
 自分の顔も相手に見えないことが、心底有り難かった。


 

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2010/02/09 小説 Trackback() Comment(0)

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