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2024/04/20

リリ3


うわああ 今週中にとか言いながら週を跨いでしまいました!
遅くなりまして大変申し訳ありません。
お待たせしました!

0:00頃に五分程上げていたのですが(もっと短かったかも知れない)、納得がいかずに下げておりました。
重ね重ね申し訳ないです。
なので続きはソレとは書き直しております。

拍手ぽちぽちありがとうございましたー!





 失われた四百四十九万二千八百秒のデータ。
 水星が自転するには足りず、火星なら既に三周目に入っている。
 イヌやネコならそろそろ生まれているし、歩けるというならば地球を一周。
 それだけの時間がリセットされた。特別なことはなかったから安心しろと兄は言う。しかしそれだけ時間があれば、たとえ兄にとって、博士にとって、世界にとって些末であっても、「とくべつなこと」は、あったはずだ。
 たとえばそうだ。
 クイックマンにとって存在しないデータの中にしか、存在しない新しい弟のことだとか。

 己の管理区域への通路を、早足で歩いていた――少なくとも彼の感覚では間違いなく――クイックマンは、渡り廊下の手前でフラッシュマンを見つけた。エアーマンの青より鮮やかな青は、レモンイエローの差し色が誘目色となって、遠くからでもハッキリと見つけられる。
 フラッシュマン。
 クラッシュマンのつぎ、六体目のワイリーオリジナル。
 最強最速を謳うクイックマンに、システムダウンという明確な形で勝利した、青色の弟だ。
 丁度、渡り廊下を行けばクイックマン管理区域へ続く道だが、フラッシュマンの向かった通路を更に進めば、第二訓練施設が近い。予定を変更して、クイックマンは足早にフラッシュマンを追った。
「おい」
「ん」
 何がしかの気配をセンサーで感じ取ったのか、フラッシュマンはクイックマンが声をかけるより前、二歩先で振り返ろうとする動きを見せた。
「訓練に付き合え」
 フラッシュマンが振り返るよりも、早足のクイックマンがその腕を取るほうが早かった。
「うぉ、…おい!」
 道に向かって体を開いた状態のまま、フラッシュマンはたたらを踏んだままの形で数歩引きずられる。五メートル進んだところで体勢を立て直し、フラッシュマンが反対側へ引きずられまいと力を込めて足を踏ん張った。
 多少重さが加わったものの、引き摺り続けるには特に何の問題もない程度の力だ。
 むしろ、これが全力だというならば、話にもならないか弱さだ。流石にどうだろう。
 話と違うなと訝りながら、クイックマンは足を止めた。ばたばたとあちこちに腕を振られるのが鬱陶しかったこともある。
「なんだよ」
「こっちがだ!」
「訓練所」
 すぐそこだろう、と先を促すと、手にしていたバインダーのタテで肘を押し上げられる。思わず弛んだ腕を手早く解き、フラッシュマンは二歩下がってバインダーを脇に抱えなおした。慣れた動きを、クイックマンは注視する。
「…俺ァそっちにゃ用が無ェんですケド」
「つきあいの悪い奴だな」
 すげなく断ったフラッシュマンに、つまらん奴だと言えば、フラッシュマンは目を見開いて変な顔をした。ヘッドギアのせいで判然とはしないが、眉間にしわを寄せたらしい。
「自基地に行く許可おりたんだろ」
「おう。何で知ってる」
「メタルと博士のミーティングに居合わせたンだよ。ほら。久々の自基地だろ。そっち行きゃァいいじゃねェか」
 フラッシュマンは渡り廊下の方を顎で示すと、厄介ものを追い払う仕草で手を振った。
 取り付く島も無い様子に、クイックマンは体の前で組んでいた腕を、腰に当てて緩く首をひねる。何をそんなに嫌がられて――或いは、警戒されて、いるのか。皆目検討もつかない。
「お前が見えたから追ってきたんだ」
 ただの事実を告げただけだが、フラッシュマンは表情を改め、硬く口を結んだ。身構えるような仕草。
 些かコアの縁がチリチリするような感覚があって、クイックマンは胸部のトレードマークを、トントンと拳の先で軽く叩いた。不具合だろうか。
「どうした」
「うん? いや」
 不具合かと少しだけ心配げなトーンで尋ねられて、大したことはないと答える。ソウカ、神妙な面持ちで排気を一つしたフラッシュマンは頷きながら、じりりと後退の気配を見せた。
 逃げ腰だ。内心呆れながら、クイックマンは先程のチリチリした胸が詰まるような感覚をもう一度味わう羽目になり、フンと鼻から強く排気した。
「暇だろ」
「何で決めつけてんだ。暇じゃねえよ」
 そのときふと、システムダウンから立ち直ってから今日まで、つまり初対面から今の今まで、クイックマンが見るフラッシュマンの顔はこのどうにも苦虫を噛み潰したような顔であることに気付く。
 真似たわけでもないが、コアの付近がごぼごぼごと泡立つような不快感に、クイックマンも同じように眉間に皺を寄せる羽目になった。馬鹿馬鹿しさに鼻から呼気を抜いて口を開いた。
「忙しいなら、そうだな一時間でいい」
 困惑した様子のフラッシュマンは、伺うようにクイックマンを見る。その自信のなさそうな様子に何故だか少しばかり苛ついて、クイックマンは後ずさりを辞めたフラッシュマンの首根っこをむんずと掴んだ。
「え、ちょ、おい! やだってば!!」
 そのまま力任せに、拒否するのを無視して再び引き摺ろうとすれば、今度はひどく抵抗をする。
 首に回した腕を解こうとする腕を逆に解き、手を払い、払われる。
 二度、三度と応酬を続ければ、四度目に腕を掴んだクイックマンの手を上から押さえ、おもむろにしゃがみ込んだフラッシュマンが、背負い投げるような素振りを見せる。おや、と密かに瞠目し、クイックマンは先程の「逃げ腰」をやや修正する。消極的だが、一応売られた喧嘩は買うらしい。
 持ち上げられた勢いと力を利用して、体をひねりながらフラッシュマンの背中を前へ転がったクイックマンは、フラッシュマンに向き合う形で地面に足をつけた。
 滑らかな関節の挙動を確認しながら、フラッシュマンの腕を掴んだ手は離さない。フラッシュマンはそのクイックマンに捕まれたままの腕に反対の手を添え、今度は肩ごと、腕を巻き込んで関節を固めた。僅かに指先が開き、その隙に手を払われた。半歩下がって、フラッシュマンは体をクイックマンへ向ける。
「…今のは? 誰に教わった? メタルか?」
 一つ一つの動きが野暮ったい割に、フラッシュマンは妙に決定打をクイックマンに与えさせない。距離を詰めれば詰めた分だけ、同じように距離を開けられる。
 それは勿論、クイックマンにしてはウォーミングアップにもならない程の手ぬるさでしか動いていないこともあるが――廊下で全力投球などしようものなら、研いだばかりのセラミカルチタンでなます斬りにされかねない――、余り見ない類の体捌きは純粋にクイックマンの興味を惹く。
 疑問に思って尋ねれば、殆ど諦めたような顔でフラッシュマンは溜息をついた。
「あんただよ」
「おれがこのヘボをか?」
「どうせヘボですけど?!」
 今度こそ決定的に愕然と目を見開いたフラッシュマンが、ひどく打ちのめされた顔で喚く。
 何も出来ないわけではないのだと思えば、やはりその真価を問いたいとクイックマンは思う。戦闘型として作られたならば、戦闘欲求は有るはずなのだ。
「何をそんなに嫌がんだ。お前は俺に勝ったろう」
 疑問と言うよりは、殆ど呆れ混じりの言葉を受けて、フラッシュマンは早口でまくし立てる。
「負けたも何も、…あんなの、ただの初動検査だあんたは俺の暴走に巻き込まれただけで」
「暴走?」
 視線を合わせると、硬い表情のフラッシュマンはアイセンサーをひりひりと戦慄かせた。開かれた目は瞬くことをしない。さっきよりは幾分かましな、しかしびくついた様子で視線を受ける。これに負けたのかとクイックマンは疑わしく思う。
「暴走だの巻き込まれただのが言い訳になるか。俺は完全にダウンしたんだろうが」
 お前の武器で、右手のバスターを示すと、戸惑った様子でこれは違うと小さく呻いた。はっきりしない様子は上の三機ともクラッシュとも違う。
「何が違う。ハッキリしないのは好かんぞ。はきはき答えろ」
「あんたは、タイムストッパーの影響で倒れた」
「お前の武器で倒れたんだろ、お前の勝ちだ」
「違うあれは」
「何が違う」
 ちがうちがうとフラッシュマンが繰り返す。埒が明かないフラッシュマンを宥めるつもりで手を伸ばすと、もの凄い勢いで手を払われる。
「あんなの勝ちとかそういうんじゃねえよ!」
 喚いたフラッシュマンが余りに必死で、クイックマンは呆気に取られた。
 ちりちりとコア付近をうろつく、どうにも不快なノイズが僅かに消えたような気がして、胸部装甲を薄く撫でる。一度調子を見て貰った方がよいだろうか?
 装甲を撫でるクイックマンを、訝しげに見るフラッシュマンへ視線を向けると、追いつめられた目がにらみ返してくる。
「おまえはおれが嫌いらしいが」
 フラッシュマンのクイックマンを刺す視線が、一瞬ゆらと泳いだ。
 おびえているのだか、警戒しているのだかは定かでない。視線だけは反らさないが、今のは動揺を誘ったらしい。
「…別に、…いや別に、俺はあんたがきらいなわけじゃねえ」
「そうか?」
 そうは思えないがと続ければ、困惑した様子でフラッシュマンは再び言い淀み、薄まった筈のノイズがじわじわと騒ぎ出す。
「まあ、好きでも嫌いでも」
 コアの不安定な挙動は、フラッシュマンに関連づけられているとクイックマンは結論に到った。
 どうにもこれは苛々するものだ。
 しかし、と、クイックマンはざわつくノイズに耳を傾ける。電流が一定でなく、不随意的に強弱の波を打ち、少しずつ煮詰められるように、ふつふつと踊るエネルギーが点火を待つアフターバーナーのような。
「俺はお前に興味がある」

 ブーメランを投げる一瞬の高揚感と少し似ていた。

 

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2010/03/14 小説 Trackback() Comment(0)

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