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テング対マジック初見戦。
【注意】
・ロボット破壊描写あり。
・ひきつづきロンパーズが虫っぽい。
・当サイトは不倶戴天レベル険悪さのテングとマジックを推奨しています。
テングは潔癖性のガチガチ選民思想の貴族お嬢様(語弊)な印象。血統主義っぽいっていうか。権威主義的。
マジックは清濁併せ呑むというよりは、濁寄り。華やかなステージに立つけど、基本生活はごみためと変わらない裏社会出身。
とかそんなイメージでいます。
前記事に拍手ありがとうございましたー!
緩急をつけた動作や、パターンを読ませない独特のタイミングは全て、敵を眩惑するためのものだ。
トランプカードとボールで牽制し、ひらひらと視覚センサーの死角を突いては間合いをはかるさまは、その最たるもの。マジックマンは距離を置いて詰めさせない、中距離からの戦法がメインである。
あるいは、素早さを活かしたタックルも、彼の得意のひとつであったかもしれない。だが、地べたを走り回る速さが、翼持つものであるテングマンにとって如何程のものか。それを十分了解しているのか、マジックマンはテングマンにタックルを行使しなかった。
しかし、場所を変え様子を慎重に伺いながら、じわじわとなぶり殺しにするのが彼のやり方だというなら、テングマンにとってこれほど退屈な相手はない。ハ、ひとつ鼻で笑い、テングマンは葉扇形シールドを水平に払い、飛んできたカードを凪ぎ払った。
「ひらひらと目障りな小虫だ」
言い捨て、背翼を開く。アフターバーナーを点火するが早いか、ガウと獣が雄叫びをあげるかの轟音とともに空を疾駆する。
テングマンは空間を裂く速さで翔び、一瞬でマジックマンとの距離を詰めた。構えるほどの余裕は与えず、虚を突かれたマジックマンのアイセンサーが驚きに一ミリ秒リロード点滅する。
「所詮は詐欺師ふぜいよ」
光の刃が走る。
居合い抜きとは、正確に言えば異なる。テングマンのブレードには鞘がないからだ。鞘を走る代わりに、人間とは速度も稼働域も桁違いの機械腕でブレードを腰位置から前へ一挙に走らせ、マジックマンの右腕を肩から切り上げた。
「ッ、ァ、アアアア!!」
斬ると言うより突いたに近い剣筋は、ほぼ肩の正面から腕を切り離した。分断されたセンサーはユニットの切り離しを鋭敏に痛覚と伝えたか、マジックマンは軋るように叫びをあげる。
思った以上に柔い感触が微かにブレードを伝い、脆弱な機体だとテングマンはマジックマンを評価した。関節へきれいに差し込んでやった刃の、切っ先が抜ける勢いで右腕がはねあがり、後方へ棒のようにすっ飛んでいく。
衝撃でたたらを踏んだマジックマンは、アイセンサーを凍てつかせて固まった。テングマンから一瞬、視線をそらして己の右肩を確認しに動く。
「馬鹿が」
そのなんということもない動き、アイセンサーがテングマンから左側へ動いただけのことに、馬鹿馬鹿しいほど強い苛立ちに襲われた。
戦闘のさなかに、己より意識を外されたことを侮辱と感じる自尊心の高さにか、テングマンを揺さぶるのは怒りにも近い衝動だ。抗いがたい破壊衝動に突き動かされ、切り上げて天を向いていたブレードの角度を直し、一気に振り下ろす。左腕をも切り落とした。
「……ッッ!!」
瞬くほどの間もいらない。隙間を通すような動きで、がちん、叩きつけられた左腕が床を打って跳ねる。両腕を失ったマジックマンは音声化されないサイレントの悲鳴を走らせるが精一杯、その場に凍りついて動かない。
わたしのうで、と小さく軋り出されたひび割れ声を聞いて、ようやくテングマンは放り投げた理性的な思考を取り戻した。我に返ったと言ってもいい。
「詐欺師ごときが余所見をするか」
状況を冷静に認識したテングマンは、一呼吸置いて、あきれた。自省と遠いテングマンが呆れたのは、無論、己にではない。
「無謀なことだったな。替えの利く腕の一本や二本、執着心は身を滅ぼすぞ」
動かないマジックマンへ、白々と声をかけるも返事はない。戦意を喪失させてしまったかとテングマンは些か侮蔑を込めて排気をする。これだから量産上がりの汎用機出身など役に立たないというのだ。キングへのフォローをいささか面倒に感じた。
DWN時代には必要のなかった――と勝手にテングマンが決めていた――ことではあるが、別団体においては相互関係を円滑に運ぶために必要な報告やデータの提出があり、後参入であるテングマンとしては一応、義理を果たさねばならない。大変に面倒ではあるが、今はまだ雌伏の時期だ。多少の不便は仕方がない、テングマンは己をそう宥める。
ほんの数秒、今後の予定に気をとられたテングマンを、キュウと狭まったグリーンのセンサーがゆっくりと捉えた。テングマンには焦れったいほどの緩やかさで、その顎が、上を、向く。
腕のない身体が後ろに倒れる。倒れるというよりは、折り畳まれるように、マジックマンの上半身が反った。雑技団のニンゲンが己が関節の軟らかさを見せつける時の動きに似た、力なく崩れる動きだ。それよりは迅速に、それでもテングマンにはひどくのろい動きで。
ぱたり、滑らかなサマーソルト擬きは、軟体生物のでんぐり返しと言った奇妙さとしてテングマンに映った。ロボットと最もかけ離れた性質のひとつ、柔軟性。思考にしろ物理的な特性にしろ、獲得困難な性質、それはある面で脆弱性に近く、しかし撓る枝は折れずに力を受け流すこともできる。
遠目で見るには座興によいものであったかもしれない。あるいは、それがもっと速ければ、むざむざ見つめてしまうこともなかっただろう。だが、テングマンの反射速度とあまりにかけ離れた、そして不可解な動きにタイミングを読みかね、解っていながらテングマンは延び上がる爪先を避け損ねてしまった。
最初に上がったマジックマンの左爪先が顎を掠める。緩いスピードと、直撃しなかったそれは大してテングマンへダメージを与えなかったが、妙なずれを伴って右足が続く。不意にぐんと伸びたリーチは、右足が正しく跳ね上がった――腕の支えもないのに?――ように見えた。
先に去った左足を振り子にして、第一撃とは段違いの威力で、右足が綺麗な弧を描き僅かに身を引いたテングマンの前を抜けていった。
一閃、残るきらめきは金属色の。ざっくりという衝撃をテングマンに残し、がちゃがちゃがちゃんと音を立てて、今度こそマジックマンはバランスを崩してひっくり返った。
糸の切れた操り人形よろしく崩れたマジックマンの下から、赤と緑の小さなものが後から後から這い出し、わらわらと蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
マジックマンの子飼いの部下機たち、赤と緑のロンパーズだ。集合して行動する量産機体の中でも、特に原始的な知能のロンパーズは、その小ささといい、わらわらと群れて侵入者を駆除する性質から、虫によく似ていた。蟻、あるいは蛆のように、己の体の何倍も大きな機体へと、一斉に集る様はいつみてもグロテスクだ。
衝撃をうけた顔へ手をやって、顎に蹴上られた裂傷を確認して舌打ちをする。
「……小細工を」
忌々しげに吐き捨て、テングマンは今一度ブレードを引き寄せた。いっそこのまま真っ二つにしてやろう、シールドを格納する僅かな間に、仰向けに崩れたマジックマンがふらり、立ち上がる。赤と緑のロンパースが一機ずつ、足元をうろうろと回っていた。
「は」
前のめりのまま体を震わせ、ひとつ漏れた排気は徐々に大袈裟な芝居がかった哄笑へ変わっていく。その度にからだは不自然にぎこちなく揺れる。
「ははは」
「回路が狂ったか」
マジックマンのおかしな様子に、テングマンはブレードをもう一度振るう気が殺がれた。
「ああなんたる無様。なんという辱しめ。怨めしい。わたくしのうで」
前のめりに折れたマジックマンからは普段の陽気さの欠片もない呪詛が垂れ、呪詛は黒い帯となって足元を覆う。そのタールに似た粘性の黒に、テングマンは眉を潜めた。
タールではない。ロンパーズの群れだ。
赤と緑が無数に混じるロンパーズが、マジックマンの怨詛に呼応するかのように、一匹、また一匹と、両腕から流れるオイルで全身を黒く染めて行く。黒いロンパーズは朽ち木を喰う蟻のごとく、ざわざわと蠢きながらマジックマンの足から上り、全身を暗く覆いながら、やがて肩でこぶのように固まった。
テングマンの背筋をぞわぞわと、処理不能な電気信号が行ったり来たりする。テングマンがヒトであったならば、考察も何もなく、即座にキモチガワルイ、と吐き捨てたであろう。
不快感に動きを止めたテングマンの背後から、わちゃわちゃざわざわと音声外のざわめきをもつロンパースが近づき、左右を抜けて追い越していく。赤い集団と緑の集団が運ぶ白い棒きれが、マジックマンの腕だと分かっていながら、蟻が獲物を運ぶ様子を連想してテングマンの内部を駆ける不快感がいや増す。
マジックマンの足下まで辿り着いた集団は、肩の瘤集団と連動して腕を受け渡し、マジックマンの腕は不格好ながら胴体に繋がった。元々の肩装甲にロンパーズが群がっているせいで、いつもより装甲が厚く、腕がだらりと垂れ下がった様は、かつて同じ陣営にいた道化を思い出させる。今しがたテングマンが切り落としたばかりの場所からはえているような様子に、テングマンはフェイスパーツをひそめた。
「……ガラクタの寄せ集めか、おぞましい」
それに反応してテングマンをマジックマンは感情なく見つめた。アイカメラは燃料が流出しすぎた所為でセンサー灯がともらないのか、暗々と鈍く、まるで虚穴だった。
「あなたのモチーフはニッポンのゴーストでしょ」
ちらりとセンサーが角度を変えた拍子に、補助灯だけが僅かに灯るカメラの表面が薄暗く光る。
「なんだと?」
「……がらくたのゴーストは義理堅いんですってねえ」
常の滑らかな動きとは比べものにもならない、不自然な動きで、ぎしぎしと腕を動かしたマジックマンは、それでも掌から一枚の赤い布きれを現出させた。腐ってもマジックマン、がたついた動きでも、種が丸見えになるような失態だけは犯さない。
「だから私も、この借りは必ずお返しに上がりましょう」
ヒラヒラとした赤い布きれは、ロンパーズの支える両手で持つと、地面につくほどたっぷりとしている。一度、二度、左右の手で布きれの表裏をテングマンに見せつけてから、マジックマンは不意に、こてりと首を曲げた。
マジックマンには口もないのに、左右に裂けるほどの大口が、にたあと笑った気がするのは、そういう笑い方をする機体を知っているからだ。
「まずは手付け金がてら」
布がふわりと持ち上がる。
はは、奇妙に擦れて跳ね上がった笑い声がテングマンの癇に障る。
「見え透いた真似を」
同時に飛び出したボールが宙で炸裂し、襲いかかるカードをテングマンはシールドで叩き返すように払った。こすい手だ、しかし、目の前を覆うようにばらまかれたカードを縫って飛んできたのは、緑のロンパーズ。
勢いよく顔に貼り付いたロンパーズに、文字通りテングマンは面食らった。小さな機体にしては強力で顔に貼り付くそれを引きはがし、地面に叩きつける。
びりりと鋭い痛みが顔を襲い、鼻を押さえると、先端が駆けている。マジックマンに蹴り飛ばされた時に傷ついた部分を、ロンパーズに引きちぎられたのだと知って、怒りにまかせて足下の小さな機体を踏みつぶした。
既にマジックマンの姿はない。
テングマンはオイルが逆流しそうな不快感で、唸り声を洩らした。
「虫けらが……!」
視界の端を、赤いものが掠める。動かなくなった緑のロンパーズの欠片を、赤いロンパーズが引きずっていくのを、テングマンは一刀のもとに斬り捨てた。
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お互いに逆鱗触りまくった
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