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2024/04/18

クラッシャヘンズ(M+C)

ハンドパーツクラッシュもうひとつ。
クラッシュマンがE缶を貰うまで。

突っ込み不在で申し訳ない。



 ドリルアームのメンテナンスと言う名目で、クラッシュマンは既に丸三日、ハンドアームで過ごしている。ハンドアームの訓練と言う側面もあるのだが、クラッシュマンの運動回路はハンドアームのごく繊細な動きを持て余していた。
 普段と全く違って、まず指があり、五本あり、それらは第一指――親指をのぞいてそれぞれ関節が三つある。それらを組み合わせ、使い分け、手のひらのものを握りこむ、そこまでは分かった。動かすだけなら動かせる。
 だが、この繊細な動きだけでは終わらず、ハンドアームというものを使いこなすには、更に力の加減、それも非常に微妙な力の加減が必要だと言うのだ。
 力は入れるよりも抜くほうが難しく、スピードは速いよりゆっくりのほうが大変だ。
 ドリルアームの方がよっぽど楽だ、とクラッシュマンは思う。これはなんと不便なパーツだろう。
 回転するドリルアームの回転速度を調節し、単純な破壊にとどまらず、ギリギリ崩れないという微妙さで破壊することも自由自在、円錐状のアームで爆弾を投擲、更に設置もお手のもの、というピタリハンドまがいの変な器用さを発揮するクラッシュマンだが、それとこれとは全く話が別だった。
 理論上は、不可能ではない、というのが父たるワイリーの言だが、実際には、可能とも言い難い。
 クラッシュマンは初期稼動時から、ほぼ大半をドリルアームで過ごしてきた。それは彼が稼動してから、今日までを戦闘に浸かって過ごしてきた、という意味でもある。ただ、日常生活でも滅多にパーツを取り替えようとしない様子から考えれば、本人がそれを好んでいるというのも事実だろう。
 ずっと後に稼動したウッドマンよりも、もっとずっと、クラッシュマンはハンドアームに慣れていないのだ。

 エネルギーは十分あるのに、なれないアームに変えてからというもの、やたら負荷を感じる。
 これがストレスという奴だろうか。
 ストレスの正体について考えながら廊下を歩いていると、余計に気が滅入ってきた。外に出ても破壊活動を行えないし、クラッシュマンには基地内をうろつく程度しかやることがない。
 気付けば、第一ラボから第二ラボを通り越し、トレーニングルームへ続く渡り廊下の手前まで来てしまっていたらしい。トレーニングというかリハビリに近いハンドアームでの訓練は余計に気が向かず、クラッシュマンは来た道を少し戻ってラウンジへ入った。
 ラウンジにはキッチンスペースがある。以前はラボ内に簡易キッチンスペースがあったらしいのだが、衛生面とスペースの問題で、ラウンジにキッチンを移したのだと言う。
 そして簡易キッチンよりも、いくらかキッチンの設備が整ったことに加え、後続機が作られ始めて生活面に手がまわらなくなってきたワイリー博士の、助手と言うより秘書の側面を帯びてきたメタルマンが、料理をしだしたのはその時期を前後している。
 すでに趣味となっているのか、たびたびキッチンで姿を見かけるメタルマンは、はたしてそこに立っていた。時間から言って博士の朝食だろうか。
 なんとなくその様子を見つめていると、左手で卵を持ち上げたメタルマンは、右手でフライパンを弄りながら、卵をフライパンの角に打ち付けて割り、器用に中身だけを出して殻をゴミ箱へ棄てた。特に気負いもない自然な流れにクラッシュマンは瞬きをし、フライパンに蓋をしたメタルマンが振り返るまで、じっと様子を凝視していた。
「なにを睨んでる」
 見ていただけで睨んだ覚えはないが、言われてみてクラッシュマンは少し考えた。ハンドアームを動かして、指を一本だけ伸ばし、テーブルに出されたままだったパックを指差す。
「メタル」
「それは卵で俺じゃない」
「メタルたまご」
「俺は卵生じゃないし産卵もしない」
「ちがう」
 卵を握りつぶさずに持ち上げるのは、クラッシュマンには偉業と見えた。更にそれを左手で割りつつ、右手でフライパンを握るメタルマンに至っては、ゴッドハンドといってもいい。
 先ほどのメタルの真似をしながら卵を指さすクラッシュマンを見て、漸く合点がいったのか、ああ、とメタルマンが頷いてみせる。メタルマンはクラッシュマンの伸びていた中指を握りこませ、人差し指を伸ばした。どうやら指が違っていたらしい。
「ハンドアームの訓練か。感心だ」
 余り表情の変化しない長兄は目尻を僅かに下げ、弟機を見た。それは微細な変化だ。が、元々のメタルマンの目元は涼しげなので、その変化は僅かだが、大きい。
 そういえば、表情筋の乏しいメタルマンでさえ、時間をかければ微笑むことが出来るのだ、やってやれないことはない、というのが博士の主張に含まれていたことを思い出して、クラッシュマンは卵へ指を伸ばしてみた。
 ぱき、と軽い音をたてて、触れた卵に左の人差し指がめり込む。
「力を抜け」
 持ち上げることはおろか、無事に触ることも出来ない不器用な弟へ、メタルマンが声を掛けた。
「そっ、と、しとぉが」
「どこがそっとだ。リンゴでも穴が開く」
 喋りながら、メタルマンがおもむろに、クラッシュマンの顎を掴む。強引に口を開けさせ、メタルマンは口の中を覗き込んだ。もつれた発声をするクラッシュマンの口の中が乾いていることを見て納得すると、無事な卵をしまいに冷蔵庫へ向かう。
 十秒ほどで、メタルマンはプラスチックの容器に入った黄緑色のゼリーを手に戻ってきた。
 光が透けてきらきらして見えるそれは、ワイリー博士が食べても、ロボット達が食べても問題の無い、ごく普通のゼリーだ。食べると甘い。たびたびこうして、メタルマンはクラッシュマンの口にゼリーを放り込んでくる。
 口の中の潤滑剤代わりになるだろうという意味だろうが、本当のところはなんなのだろう、と稀にクラッシュマンは疑問に思う。
 常に爆風に晒されているのと、普段から口が開きっぱなしになっている(自覚は無いのだが)せいか、クラッシュマンの口の中はよく乾燥している。今日はさほど乾燥してもない、とクラッシュマン自身は思っている。喋り方がもつれ気味なのはいつもだ。もっと酷く乾燥していて舌のパーツが軋む時も珍しくはない。
 メタルマンのこの行動に余り意味は無い気もする。乾いていようが潤っていようが、クラッシュマンの発声がおかしいのは、口の中の乾燥だけの問題ではないのだ。
 それが分からないメタルマンではないだろう。しかしそうなると、無表情に淡白に行われる為に気付かなかったが、まさか甘やかしているのだろうか。
 クラッシュマンは長兄の顔をちらっと見たが、エアーマンもバブルマンも分からないというメタルマンの意図がその名の通り鉄面皮から読める筈も無く、クラッシュマンは考えを放棄し、大人しくゼリーを貰う事にした。
「さて」
 もごもごと口を動かすクラッシュマンを見て満足したように一つうなずくと、メタルマンは穴を穿たれた卵を、中身が零れないようにそっと布巾の上に立てた。これを、と、クラッシュマンに提示する。
「そっと、は、ゆっくり、だ。1秒2ミリ程度でいいな。射程1センチから0.5ミリずつ静止」
 速度の問題か、とうなずき、クラッシュマンは指示を受けた通りにゆっくりと卵へ指先を近づけた。ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、と呪文のように呟きながら触っている指先で、卵の殻が更に内側へ砕ける。
「…圧力をかけるな」
 卵とメタルマンを交互に見つめると、メタルマンは同じように視線をクラッシュマンの指先と顔を往復させ、首を二回右に傾けて戻す。暫くの間を置いてから、テーブルの上のエネルギー缶を持ち上げる。
「卵はまた今度だな。こっちをやる」
 手渡された缶を言われたそばから潰すような気がして、クラッシュマンはそれを手のひらの上に乗せた。両手で受け取ると捧げ持つような形になり、妙な光景ではあるが現在それを指摘する要員はいなかった。クラッシュマンは見慣れた金属の缶をじっと見つめ、視線をメタルマンへ移す。
「開かんがぞ」
「開けられたら飲んでいい」
 へこますなよ、と追い打ちをかけられ、無理じゃないかと思いながら、クラッシュマンはラウンジを後にした。

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2009/04/18 小説 Trackback() Comment(0)

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