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2024/03/29

リリ 2


近日といいつつ日曜日も終わってしまいました。
お待たせしまして申し訳ございません。
クイフラ続きです。 

【ご注意】
 ・残念なことにまだ続きます。
 ・色々見切り発車ですごめんなさい。
 ・クイフラ度は徐々にあげていき   たい。
 ・フラッシュがまださっぱり出てきてないですが。





 クイックマンには、約二ヶ月の空白がある。
 空白、というのは語弊があるかもしれない。
 世界的な時間の経過と、クイックマンの自覚している時間の経過の間に齟齬があるのだ。彼のデータメモリに二か月分の穴がぽっかりと口を開いているわけではなく、単純にその部分のデータ自体が存在しない。
 接ぎ合わされたかの如く、世界では存在していた時間がクイックマンからは失われていた。クイックマンにとっては連続している昨日と今日でしかない目覚めの間に、実際は二ヶ月もの時間が経過していたのだという。
 二ヶ月。約六十日。
 その間にクイックマンが光速を越えることはなく、何か特別、かつ革命的な変動は無かった。らしい。だから安心しろと諭されたところで、些か損をした気分ではある。
 ずっと眠っていたならともかく、そのうちの一ヶ月、クイックマンは確かに活動し、なにがしかのデータを蓄積していたのだから、尚更のこと。
 稼働してからの、全てが失われた訳ではない。しかし、積み重ねてきたあらゆるもののつながりが一度そこで断たれ、再びつなげるにはまた地道な調整が必要になる。
 スピードを至上とするクイックマンにとって、時間もまた、速度をコンマ単位で捉える限り、欠くべからざる、至上のものであると言っていいだろう。
 しかし、その部分は既にクイックマンの中のどこにも存在しない。
 残りの一ヶ月は完全にスリープモードに――というよりは、ほぼ危篤状態であったというほうが正しい――あっただけで、起動したらその間のデータは失われてしまい、戻らない。そういう空白だ。

 しかし、まあ、仕方がないものだ。
 その空白について、実はクイックマンはあまり気にしてはいなかった。
 失ってしまったものは仕方がない。
 産みの親であるドクターワイリーと、メタルマンが口をそろえて「戻らない」というのだから、それはもう何がどうあっても戻らないのだ。
 自分には自己修復の技術もなく、それも電脳関連については門外漢も良いところだ、説明を受けたところで理解する気にもなれない。自分の出来ないことを、幾ら専門家であるとはいえ、何故出来ないのかと騒いだところで仕方がないし、意味もないのでクイックマンは「そうか」と一言頷いてその事実を受け容れた。
 仮に自己ベストを塗り替えていたのだとしたら、もう一度越えるまでだ。
 寝ている間に、弟がもう一機増えていた。
 その程度のことしか起きていない。

 

「フラッシュマン?」
 メタルマンが最初に予測した数値よりも、クイックマンの情動回路は落ち着いていた。
 直後に見られた数%の乱れは、己の状態を悟った後に僅かにブレを見せたものの、自身の速力や動きを確認して一通り納得したのちは、ほぼ通常値に落ち着いたようだ。
 リハビリと称しての戦闘訓練に付き合った後、エアーマンの言葉を受けて、クイックマンは形の良いつり上がり気味の目をパチンと瞬かせた。初耳だという顔に、おやと思ってエアーマンは内心で首を捻りつつ、眼差しだけで頷いてみせる。
「そうだ。フラッシュマン」
「メタルだと思ってた」
 腑に落ちないといった様子のクイックマンが、コツコツとつま先をフロアに軽く打ち付け、次いで踵を壁に打ち付ける。
「何も聞いてないのか――というか、聞かなかったのか」
「そういえばちゃんと聞いてないな」
 コンディションを万全にすることにばかり気が向いて、それどころではなかった。あっけらかんと告げるクイックマンに、流石にエアーマンも些か呆れたが、らしい反応だと納得もする。
 クイックマンが様々な物事に無関心であるのは、その興味の対象が常に一所に向いている所為だ。そのひとところ、最速であり最強であるという概念がクイックマンの命題であり存在意義でもある。
 常に全速力で走り続けていなければ、あっという間に転げ落ちる場所に留まり続けるために、彼は些末事をばさばさと己の内から切り落としていく。些末の基準はクイックマンに拠るものであって、状況や前例や常識だとかに左右される所を、少なくともエアーマンは見たことがなかった。
 最速が一番の関心事で、最強は僅差で二番。そのほかはずっとその後だ。
 一度メーターがばちんと振り切れてしまえば、視野狭窄の猪も真っ青なクイックマンのこと、何もかもが些末事に分類されることは想像に難くない。
「なんて聞いた?」
「模擬訓練中に負けて、派手にダウンしたから修理に時間が掛かった」
 大雑把に過ぎる説明をするメタルマン(博士なのかも知れない)もメタルマンだが、それで疑問も持たずにああそうですかと受け容れるクイックマンもクイックマンだ。どうしようもない総ボケの現場である。
 最強に拘る彼が、誰に負けたかを問わなかったのは些か意外ではあったが、そもそもクイックマンは関心事を己へ向ける傾向が強いのだった。
 胴体のファンをカラカラと微かに回して、エアーマンが呆れに言葉を失っていると、クイックマンはしかし、と良いながら肩をぐるりと回す。
「後方支援じゃないのか。メタルが欲しがってただろ、サポートタイプ」
「あの博士が、後方支援専門のお嬢さんを作るのか?」
 戦わないナンバーズを博士が作るわけがない。あの基本的に派手好きな博士がだ。まさか。
「歌って踊れる戦闘型だ」
「そりゃ凄いな」
 エアーマンの言葉に、クイックマンは分かっているのか分かっていないのか、実にあっさりとした相づちを返す。まさか本気にしたかもしれない、エアーマンはちらとクイックマンを窺った。
「そうか、フラッシュマンか」
 もう一度呟いて、地面をしばらく見ていたクイックマンが、ふ、と口元に笑みを掃く。そうか、ともう一度口にするのが聞こえた。

「あいつ闘れるのか」

 クイックマンの呟きへ、エアーマンは返事を返さなかった。もとより問いでない言葉に、エアーマンの応えがなかったところでクイックマンが不満を唱えるはずもない。
 エアーマンは、己の弟の一見酷く嬉しそうでありながら、しかし、どうにもきな臭い笑顔を見て、頭の中の報告予定に「メタルにリペア機材の点検を勧めておく」、と無言で一項目加えた。

 

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2010/01/25 小説 Trackback() Comment(0)

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