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【注意】
・特殊捏造設定があります
・オリロボ的な描写があります
・複数のシリーズが混入されています
・装甲レスが含まれます
夏コミにて委託して頂いた、同名無料配布本「店番の日々」より
既刊「WORLD CURTAIN」のマジック捏造設定に基づいており、且つネタバレを含んでおります。
微妙に加筆修正してます。
3
カスタムメイドを一体、仲介した。
相談に乗ってくれ、と、顔見知りの老人は、真新しく分厚いカタログを片手にアイラー商会のドアを叩いた。
冷蔵庫の取り付けをしたのが縁で、たまに――月に二、三度程度の頻度で顔を出す老人だ。特に買い物をしたこともなかったので、正確に言えば客というわけでもない。昼間は暇なことが多いので、無碍にする理由もなく、暇つぶし程度の気持ちで相手をすることが多かった。
老人について、あまり明るい噂を聞いたことはなく、人の口に上る話は、大抵の場合、苦笑いで締めくくられる。悪人ではなかったが、彼の癇性で狷介な人となりは、人を寄せ付けない類のものだ。
相当偏屈な爺さんだ、というのが、店の仕入れ係の言だが、エアーマンは職人気質の頑固な爺だ、程度に考えている。
仲が良くなったと言うべきかどうか、正直なところ迷うのだが、少なくとも、老人はエアーマンを気に入っているようだった。
手品を生業にしていた老人は、年を取ってから弟子を育てたくなったのか、とにかく手先の器用なカスタムメイドを欲しがった。確かに手品ならば器用でなければ話は始まるまい、と頷いたものの、職人気質の手品師を納得させるようなものを購うには、彼の提示した金額はあまりに十分とは言えない。
予算に余裕のない中で、二束三文の型落ちの素体を見つけてきたのは仕入れ係の手柄だ。
提示金額の七割程度で買い付けてきた素体は、カタログに載るような新型ではなかったが、それにしても破格だった。得意満面の仕入れ係をひとしきり褒めてやって、それにしてもと腕を組む。
「中古か? にしても安いな」
言っては見たものの、見たところ、使い古された感じはなかった。目立った瑕疵はなく、B品と言うほどの何かがあるとするなら、手足と胴体のロットが異なるのか、ほんの少し白度が違う程度だ。
しげしげとメンテナンス台に横たわるカスタムメイドを眺めて言うと、フード付のコートと首巻きで怪しい商人風の身なりをした仕入れ係は、不満げに口を曲げた。
「セクサロイドの中古なんてほっとんど出ないって、旦那が爺さんに説明したんじゃないすかァ」
「素人さんにはなあ」
仕入れ係が不満を表すのを手伝うように、後ろの裾がひらひらと揺れる。時折、緑色の尾がひょこひょこと覗き、コートが波打っている。仕入れ係、スネークマンは、コートの中で尾をくねらせているのだろう。
エアーマンがそれを見ていると、ぴたりとうねりが止まり、取り繕うようにこほん、と咳払いをした。
「なんか、人気の型に前後で挟まれちゃった、隙間のやつみたいで。どうもぱっとしなくて早々に生産が終わっちまったらしっすね。これも店頭から出戻りの倉庫入り」
「それで大安売りか」
「まあ、あと素体だけですしね。普通もっと盛りますよ」
「確かに、カスタムメイドなのにカスタムしてない」
カスタムメイドの基本パーツだけで組んだ顔や体は、整っているものの没個性的で印象が薄い。ロボットに持つ感想としては、そのまんまではあるが、そのカスタムメイドは「人形じみて」いた。
人形よりも人形らしいと感じたのは、恐らく、本来はその上に人工皮膚を貼るはずの、一番下の強化プラスチックのボディでさえ、滑らかに磨かれていた為だろう。ロボットから見ても、戦闘型や全環境対応とは別の意味で、かれが特殊なものであることはよく分かった。
「正気の沙汰じゃないな」
つくり自体は、ごく一般的なヒューマンフォームだ。
しかし、パーツのつなぎ目や表面状態が、驚くほどきれいだった。溶接痕や接ぎは殆ど目立たず、最下層のパーツがこれだから、通常の家庭用従事機よりやや割高なのだ。もともと、このカスタムメイドの会社といえば、アンティークドールの工房からロボットメーカーに鞍替えしたという業界では異質な会社だ。なればこそ、拘る部分もあるのだろう。
「どうせこの上に緩衝材足して皮膚貼んでしょうに。よく磨きますよ」
椅子型のメンテナンス台の上に横たわって眠る、カスタムメイドの額を軽く撫で、エアーマンは、しかし、と殆ど感心する気持ちで小さく排気を洩らした。
「皮膚も貼ってないのに色っぽいもんだな」
「旦那、言っておきますけど」
頭部の丸みを掌で確かめていたエアーマンは、スネークマンの冷淡な視線を受けて手を止めた。
「“うりもの”にいたずらしねえで下さいね」
「人聞きの悪い」
「いーえ。こういう機体は一番その手のクレーム訴訟が多いんだから」
「まるで女衒の相談だな」
「まるでもなにも、違ェねェでしょう。旦那好みにカスタムしてエんなら、ちゃんと」
「ああ、こいつはこのままだ」
カスタムは、しない。おしまい。
エアーマンが掌を開いて言うと、スネークマンはぱちりと瞬きを一つ。それから長い舌で自分の顔の周りをべろりべろりと緩慢に撫で、「そういやァ」と気の抜けた声を出した。
「腕に予算半分割くんでしたっけ」
「ああ」
手指だけは最高のものを、と随分重ねて言うものだから、よほど違法パーツか改造パーツでも組んでやろうかと思っていた。呆れ混じりに呟いたエアーマンの言葉に、スネークマンは興味を示し、へえと顔を上げる。
「そりゃいいですね。オレちょうどいいの知ってンすよ」
思っただけなのだが、仕入れ係はエアーマンの言うことを余所に、俄然やる気が出たという体で、軽やかに店を出て行った。
弟機いわく、無駄に有能な仕入れ係は、三日後には揚々と姿を現した。それも、査察でも入ったら一発でしょっ引かれそうな代物を揃えて。その行動力と充実のラインナップには、流石のエアーマンも呆れるほどだった。
「呆れるほど仕事の速いやつだな」
「あざっす! ちゃんと自社製品も混ぜましたから」
「自社……フラッシュが面白半分にやってる代替パーツを持ってきたのか?」
「やっぱまずかったですかね」
「まずくなくはないな。むしろやばい」
「ま、ま、ほかのも混ぜてありますから」
折角ですから、と推すスネークマンに押し切られる形で、アームパーツは全て当の老人に見せることになった。スネークマンのセールストークを老人は大層胡散臭い顔で眺めていたのが面白い。
しかし、スネークマンお奨めのハンドパーツは、老人のお眼鏡には叶わなかったらしく、「重い」「野暮ったい」「ぎちぎちうるせえ」と、散々な有様だった。
大不評にもめげず、スネークマンは稀に見る熱心さで「丈夫ですしポテンシャルは最高ですよ」などとアピールを続けたが、「硬くて力任せの木偶なんぞ役に立つか。戦争でもする気かえ」の一言で黙らされてしまった。
口のよく回るスネークマンがやりこめられてしまったものだから、エアーマンは可笑しくて堪らなかったのだが、笑い出すにもいかず、堪えるのに大変苦労をした。
結局老人が選んだのは、極東島国の町工場で細々と作られる無名の、しかし間違いなく質の良い両腕であった。カスタムメイドの本社の人間が見ても、恐らく手品を行う素体としては最高だとお墨付きをくれただろう。
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