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- Newer : ステープルチェイサー
- Older : 店番の日々 3
【注意】
・特殊捏造設定があります
・オリロボ的な描写があります
・複数のシリーズが混入されています
・装甲レスが含まれます
夏コミにて委託して頂いた、同名無料配布本「店番の日々」より
既刊「WORLD CURTAIN」のマジック捏造設定に基づいており、且つネタバレを含んでおります。
4
店の周囲に張り巡らせた警戒システムが、ポン、と軽いアラート音を立てた。
カウンターに置かれた、レジ兼用の一台のノート型パソコンは、警戒システムもまた管理している。新しく画面が立ち上がり、付近に取り付けた監視カメラから、薄暗い通りの画像を送られてきた。
道を横切った白っぽい影に、「未確認機影」の文字が貼り付き、街灯でぼんやりと白い手足が浮かび上がった。
この間、仲介したばかりのカスタムメイドだ。
徘徊をするロボットは、稀にある。忠誠プログラムの欠損や、老朽化などが主な原因だ。
店頭から倉庫へ戻された為に中古扱いになっていたとはいえ、実質新品であることを考えれば、元々のバグの可能性も皆無とは言えない。
しかし、日常的に虐待を受けた続けた挙げ句、物理的にプログラムの一部が壊れて行動に異常を来すロボットは、新品のバグより珍しくない。
正直なところ、やはり、と残念に思った。件の老人についてエアーマンが知ることは限られていたが、その多くない老人の人となりを示す事項の中に、癇性で暴力的な節があるという情報は、全体から見て少なくはなかった。
そして、店番の推測を裏付けるように、店を訪れた件の弟子のこめかみには、殴打によると見られる歪みがあった。
「メンテナンスとリペアのプログラムをインストールしたいのですが、店主にお願いできませんか」
件のカスタムメイドには、異常を知らせるような挙動の不審は見られなかった。意外なことに、と言うべきか、案の定、と言うべきか、老人の元を「逃げ出した」わけではないようだ。
直向きなアイセンサーは傷一つ無く、艶やかにエアーマンをその曲面に映した。
主人に受けた破損を、自分でリペアするために、このカスタムメイドは夜分にここまで来たのだろうか。
胸の悪くなるノイズに辟易して、エアーマンが返した視線は随分と剣呑な色を帯びていたようだ。弟子が怯んだような気配があった。幾分か間が空いてから、弟子はどこか焦る様子で、日常メンテは覚えたのだと言った。
「修理ともなると見様見真似というわけには、それで」
「点検はプロの技師に任せるのが良い」
弟子の訴えを遮り、老人に言われてきたのかと問えば、弟子はいいえと頭を振った。
いいえ。エアーマンはその答えにアイセンサーの感度を上げる。
「師匠は何も」
弟子は無自覚であるようだったが、持ち主に無言で出奔し、黙ってプログラムをインストールしようとした、本来なら行動制御のかかるべきところだ。
出所が忠誠にせよ何にせよ、自由意思が倫理制御を凌いだ、普通のロボットメーカーなら、回収対象と言われてもおかしくない。ほんにんに、家庭で従事するロボットとしての倫理規範に抵触した、と言う意識が全くないのも危うい。
しかしそれを、おもしろいな、とエアーマンは腹の裡で呟いた。
持ち主の意を汲んで、倫理制御の目をくぐり抜けた、それこそ手品紛いの手管だ。どちらにせよ、思っていたよりも良い電脳を積んでいるのかも知れなかった。
それがこの会社の製品特性なのか、既にこの機体が「重篤なエラー」を起こしてしまっているかは判じかねる。しかし、風変わりな持ち主に早くも似て、カスタムメイドもまた、規範的な行動思考を持つロボットではないといえた。
「あの」
「……ああ、すまんな。先に言うと主人に承諾を得ないアップデートは違法でな。しょっ引かれるのはこっちだ」
「ですが」
「それに、見たところ一文なしだろう」
金。
凍り付いたように動きを止めた弟子は、恐らく金銭というものを頭からすっ飛ばしていたのだろう。顔には全くそのことを考えていなかったと書いてある。
「…………持っていません」
「だろうな。話にならん」
諦めろと手を左右に振ったエアーマンを、縋るように弟子は引き留める。
「待って下さい!」
エアーマンタイプの太い肘を両手で押さえた弟子の、必死さの所以を、エアーマンは不思議に思う。主人への盲信とよく似ているが、すこし違うような。
「生憎持ち合わせがありませんが体で払います」
そうして真っ直ぐに曇りのない目を向けたまま、きっぱりと断じた弟子の言葉に、エアーマンの思考は霧散した。絶句したと言ってもいい。
思わずといった感じで動きを止め、白っぽい頭の天辺からねずみ色のガウンの袖の毛羽立ちから、くたびれた裾、磨かれたつま先までを視線で往復してしまう。
どうにもマッチ棒のような体躯はともかくとして、あの老人がそういう意味で目の前のカスタムメイドを扱っていたとも思われぬ。一旦視線を店の奥へ遣ってから、改めて鮮やかなアイセンサーを向けるロボットへ視線を戻した。
「具体例を提示してくれ」
「ご承知の通り手先の器用さには自信があります。細かい作業であれば直ぐに覚えますし、燃費がよいので三日に一度の充電で夜中動けます。家事一般も一通り、内職業務も紹介頂ければ」
「分かった、取り敢えず言いたいことは了解した」
勢い込んでまくし立てる老手品師の弟子を制し、エアーマンはどうどうと両手の平で押さえるジェスチャーで落ち着け、とクールダウンを勧めた。
「滅多なことを言うと売り飛ばされるぞ」
呆れた声をだしても、弟子はぴんとこない顔をエアーマンにむけて、はあ、と曖昧な相づちを打った。
ああ、これは、とエアーマンは排気をする。
その意味に思い当たらない程度には、弟子は世間知らずであるようだ。
「許可を得て来い。インストールについては聞いておく」
「はい、……はいありがとうございます」
「あんたは、すこし、手品の他にも覚えることがいろいろあるみたいだな」
やれやれと大きく溜息めいた排気をする。
それをただ真っ直ぐ見返す弟子は、相変わらず傷の一つもないアイカメラをこちらに向けていた。
2011/08/21 小説 Trackback() Comment(0)
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