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まだひっぱるのか。という。
いや、ここが書きたかったのです。
【オリロボ注意】
変なテンションで申し訳ない。
あちこちパチパチありがとうございます。
わーい
フレンダーを連れて自室へ戻る途中、何やら気配を感じてフラッシュマンは振り返った。振り返った廊下の端には何も無く、特に不審なものは無い。
ただ、フレンダーの尾が先程からピンと立っている。長く緩やかなカーブを描いていた尾に、いつから物差しが入ってしまったかとフラッシュマンは記憶を探る。
自基地内でのトレーニング中、トレーニング終了、渡り廊下までは確かに尻尾はゆらゆらと優雅に揺れていたはずだ。中央棟に入った時はどうだったろうか。まだ曲線だったように思う。
恐らくは、キッチンスペースを過ぎたところあたり――、大まかに察しを付けて、フラッシュマンは足を止めると、小さな額をよしよしと撫でてやった。フレンダーは、かっきりと尾の付け根を120度に保ち、先端だけを困惑したようにぐるぐると回している。
「どうした。何か見つけたのか」
うろうろと周囲にアイカメラを向ける様子は、落ち着きがなく、フラッシュマンは首を傾げつつ周囲の様子を探る。おかしなものは見なかったと思うのだが、と視線をそらした先で、ばちりと赤いセンサーがふたつ、こちらを向いているのと出合った。
長い事修理中で閉鎖されている第一訓練施設方面の廊下は、封鎖こそされていないものの、電気も消えて殆ど閉鎖状態だ。進んだところで、その先は訓練施設しかないのだから事実上どん詰まりになっている。
どん詰まり方向への分岐点を通り過ぎて3メートル、赤いセンサーライトとの距離は分岐点から更に反対方向へ8メートル。壁に設置された電子錠の操作盤の手前、暗がりにうずくまった色も分からぬ機体から、赤々と、空中に線を描くような真っ直ぐさで、センサーがこちらを向いていた。
「………んなとこで、なにやってんの」
クラッシュ、フラッシュマンが呼びかけても、クラッシュマンはただじっとこちらを見つめるだけで、うんともすんも返事をしない。
「ホント隅っこ好きだな…」
暗がりから届くセンサーの赤は、彼がぴくりとも動かないこともあいまって、ピラミッド前に鎮座ましましている墓守さながらの妙な威圧感があった。クラッシュ、もう一度名を呼ぶと、きろりとアイセンサーがフラッシュマンの目を向いた。正面からかち合わせると、暗所用のセンサーがまぶしく、フラッシュマンは一瞬目を細める。
「なあ、チャージに行くけど暇なら一緒に」
行かないかとフラッシュマンが言うよりも先に、クラッシュマンがゆっくりと首を左右に振った。こちらへ視線をよこしたまま、じったりとした動きで振られる頭は、突っぱねられるより、よほど強い否定を伝えてくる。
起動してからこの方、クラッシュマンに距離を置かれたことが初めてで、フラッシュマンはぱちぱちと瞬きを繰り返した。期限切れのエネルギーオイルでも飲んだのだろうか、その様子を訝りながら、フラッシュマンは一歩、足を前へ進めた。
「どしたよ、調子でも悪…」
その途端、石像の如く身じろぎもしなかったクラッシュマンが、さっと後へ退がった。
戦闘以外で滅多に見ない兄の機敏さに内心驚きながら、不審に思いもする。じりり、ともう一歩足を前へだすと、更に同じ分だけクラッシュマンはするすると後へ退がった。
「………え」
「………」
「え、…ええ? えっなに、おれ? ちょ、どったのよ」
まるで見ない様子に慌てて声を掛けるも、クラッシュマンはやはり静かに静かに首を振るだけだ。
何だこれはどうしたこれは。
内心で盛大に困惑するフラッシュマンが、ふと後へ視線を向けると、黒いフレンダーが体を低く保ってじっとしている様子をアイセンサーが捉えた。伏せも伏せ、匍匐前進で穴の中を這う災害救助犬もかくやという姿勢で、左右の耳がピッ、と折り目正しく下向きに後ろを向いている。長い尾が見えないと思ったら、どうやら腹の下に仕舞っているらしい。
ステイの体勢というよりは、確実に怯えているといっていいだろう。何だその細かいシステムは。
前後で展開する状況、それぞれ愕然と混乱させられる一方で、フラッシュマンの高度な電脳が高速で最適な答えを弾き出す。
すなわち、最も最適な行動は、と1ナノ秒で行動に移そうとしたところへ、ひどいノイズがフラッシュマンの思考回路を占拠したのである。
すなわち、フレンダーまじかわいいよフレンダーフレンダーと三回くらい高速で連続認識するそれは、ほとんど即効性ウィルスかの如き強制力でフラッシュマンを突き動かし、気付いたときには首から提げた一眼レフを素早く構えていた。いや、ほんとほんと。ノイズノイズ。ウィルスウィルス。
脇目もふらずに連射をしても、手ブレなど起こしませんロボだから、アナログ機器を通すとピント調整はコツが必要です、が勿論ピンボケなど有り得ません、被写体に注ぐのは愛でシャッターを切るのは衝動で、もっと更にパッショネイトに! ダンサブルに! ドラスティックに!
シャッターを、
切って、いたら、
背後に、
視線を、
かんじました。
はっ、と我に返ったフラッシュマンは、ぱっとカメラから手を離した。支えを失ったカメラは地面に落ちることはなく、首から下がった紐を縁に腹部に思い切りヒットしたが、痛いだのなんだのと言わずにフラッシュマンは意識を背後に集中した。
腹部は緩衝材がみっちり詰まっているのでカメラが壊れる心配はない、というのも少しフラッシュマンを冷静にさせたかも知れなかった。
ゆっくり、慎重に、振り返った先では、やはりクラッシュマンがこちらをじっ、と、ただただ見つめている。暗がりの中から静かに、しかし決して反らされることのない一対の赤いセンサーが、ものも言わずフラッシュマンを見つめている。
「……ええとこれは」
俄に冷却システムが音を立て始め、ちりちりと頭部に熱を感じる。
なんだこれは。メタルマンにフレンダーのことを問いただされるならともかく、取り敢えず現時点でクラッシュマンに非難がましい視線をかけられるようなことは、何もしていないはずだった。
「べつに、お前をないがしろにしてるとかそういうわけじゃ」
得てして多弁な人間が無言のプレッシャーに弱いかの如く、一切の反応を返さないクラッシュマンの無言に、フラッシュマンがおろおろと言葉を紡ぐ。それは事実を述べているだけに過ぎないのに、こうして音声にして発するとひどく胡散臭く感じられるものだった。
どうもフラッシュマンはこの直ぐ上の兄に対して、論理的に対話でねじ伏せるということが――普段から効果が無いと言うこともあるにはあるのだが――苦手であった。
「…な、なあ、こっちこいよ」
半ば情に訴えるような情けない声で兄の名を呼べば、しかしこちらを見つめたままのクラッシュマンはゆっくり、ゆっくりと首を振り、そのまま暗がりに溶けるように姿をくらましてしまった。
いや、たしかに「今まさにジャストナウこの瞬間がシャッターチャンスと言わずしていつ言うだろう」とかを思ったのは確かであるが。
「……そんな非難されるようなこっちゃねえだろうよ…」
ましてや、どうして浮気を責められているような気持ちにならねばならないのか、一抹の理不尽を感じながら、フラッシュマンは自分が誤解ですと言いたくなっていることに気付いた。
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クラッシュ様が見てる。
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